TPPから見える風景-今後の日米“本格交渉”、願望と思い込みで通用するのか?-

TPPに反対する人々の運動
近藤康男

 昨年3月のこのコラムで、米通商代表部が議会に送った18年12月21日付の「対日交渉目的」22項目について、下記のような表を掲載した。しかし、その後日米貿易協定の交渉が始まったため、「対日交渉目的」については触れないままできた。日米間の合意により発効後4ヶ月以内に交渉分野を決めて“本格交渉”に入ることとなっているので、改めて“本格交渉”としての「対日交渉目的」の内容について書き進めたい。

TPPと「対日交渉目的」は実質的に同じ、米国の狙いは2国間の包括的協定だけ
 下記の表を一覧すると、「対日交渉目的」の表題自体がTPPに類似する章は、前文を除く30章の内22章(下線)ある。更に共通する内容を含む章は、「繊維及び繊維製品」、残る7章は、ある意味では日米2国間では重要でないと考えられるものだ。
 一方で「対日交渉目的」の項目でTPPに含まれていないのは「医薬品・医療機器の公正な手続き」と「為替」のみ。しかし、「医薬品・医療機器の公正な手続き」はTPPに並行する日米交換書簡(国際約束を構成しない)に同じものがある。ただ、「対日交渉目的」の「一般規定」の4項目の内「日本による非市場国(※筆者注:中国)との自由貿易協定交渉への牽制」を意図する項はTPPには無い内容だが、トランプ政権による新NAFTAと「対EU交渉目的」に含まれている(為替も同様)。
 従って「為替」と「一般規定」の一部を除き、TPPと「対日交渉目的」とはほぼ同じものと考えてよい。但し、「対日交渉目的」には「ISDS条項」が含まれず、一方で内容的にTPPを超えるものも含まれているという点でも、2国間協定として合意できれば、米国にとって、TPP復帰は全く無意味なものとなる筈だ。
(TPPの全文、30章:下線は「対日交渉目的」と共通する章)

・前文  ・冒頭の規定及び一般的定義  ・内国民待遇及び物品の市場アクセス  
原産地規則及び原産地手続き  ・繊維及び繊維製品  ・税関当局及び貿易円滑化
貿易上の救済  ・衛生植物検疫措置  ・貿易の技術的障害  ・投資  ・国境を超えるサ-ビスの貿易  ・金融サ-ビス  ・ビジネス関係者の一時的な入国  
電気通信  ・電子商取引  ・政府調達  ・競争政策  ・国有企業及び指定独占企業  ・知的財産  ・労働  ・環境  ・協力及び能力開発  ・競争力及びビジネスの円滑化  ・開発  ・中企小業  ・規制の整合性  ・透明性及び腐敗行為の防止  ・運用及び制度に関する規定  ・紛争解決  ・例外及び一般規定  ・最終規定

(22項目の対日交渉目的:下線はTPPと共通する分野)
物品貿易  ・衛生植物検疫措置  ・税関・貿易円滑化・原産地規則  ・貿易
の技術的障害 ・規制に関する優れた慣行  ・透明性(貿易に関する法・諸規則・制度の)公表・行政措置  ・通信、金融を含むサ-ビス貿易  ・電子商取引・国境間データ流通  ・投資  ・知的財産権  ・医薬品・医療機器の公正な手続き  
国有・国営企業  ・競争政策  ・労働  ・環境  ・腐敗防止  ・貿易救済措置  ・政府調達  ・中小企業 ・紛争解決  ・一般規定  ・為替

“桜”と全く同水準の臨時国会での審議、願望と思い込みに終始した政府答弁
「米国にとってのインセンティブはある。米国にとって、TPPのメリットは日米貿易協定以上にあるからだ」(渋谷政策調整統括官12月4日外交防衛委員会)
「再協議については、自動車・部品を想定しており、農業含めそれ以外は想定していない」(茂木外相11月6日衆院外務委員会など)
 これ以外にも毎回の委員会で繰り返し根拠を示すことなく、「米国の意図を記しただけ」「義務を負った訳ではない」などの答弁が繰り返された。
 昨年3月4日の通常国会参院予算委員会で国民民主・舟山氏の日米交渉での情報開示を求める質問に対して、茂木担当相は「日本も米国も、交渉途中の段階で同じような形、レベルで国民に説明していきたい」と答弁したが、その後の情報開示は実質皆無のまま協定は批准された。
 米国は18年9月の日米共同声明を受けて、TPA法に基づき12月に「対日交渉目的」を議会に提示し、法的な責任・権限・義務・手続きに基づいて交渉に臨んでいる。そのうえでの「本格交渉」発言なのだ。日本政府のいい加減さとは本気度のレベルは雲泥の差だ。

 「対日交渉目的」の内容については、次回以降のコラムで記すこととしたい。
(JAcomの許可を得て転載)

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