TPPから見える風景-再度、合意に値しない合意、協定に値しない協定-

TPPに反対する人々の運動
近藤康男

10月8日に協定に関する文書が公表され、その後国会での審議が始まった。公表文書を読む一方で国会審議をフォロ-していて、妙なことに気づいた。日本が獲得したい課題に関する公表文書の表現は曖昧な表現が目立つ中で、政府答弁は「約束されている」「(関税撤廃は)前提となっている」と断定的な答弁が目立ち、一方米国が獲得したい課題については、表現はハッキリしているのにも拘わらず「予断を申し上げることは差し控えたい」「協議をするこことが合意されているだけ」と曖昧な答弁が目立つことだ。

明確な約束・合意ならそのような文言の文書にすればよいし、今後の協議次第であればそれに即した表現にすればよい。ビジネスの国際契約書ではとても通用しない文言だ。これでは政府答弁を信用できなくて当然だろう。

コメを始め農林水産品での関税や輸入枠の除外措置、農産品や工業製品での輸出に関わる関税の削減・撤廃はいくつかあるものの、全体として評価に値するものとは言えない。

まず大きく5つの問題点を挙げたい
デジタル貿易協定を除き、日米貿易協定に限定すると大きく5点の問題がある。
① 交渉で最大の課題だった牛肉など農産品の輸入増の際の緊急輸入制限(SG)を難しくしただけでなく対米特恵待遇を容認した内容となっている、
② 日本車・部品の関税撤廃は何も担保されない素っ気ない条文だけだ。
③ 2重の意味で米のWTO違反を容認した協定となっている、
④ 当初の夢想した“物品貿易”限定も放棄し、大統領選のための合意を急いうえ、本格交渉まで受け入れた、
⑤ これ迄の通商交渉の基本姿勢を放棄した“戦略なき放置主義”がある、
これまで茂木大臣、渋谷政策調整統括官は「協定は全分野のパッケ―ジで合意しなければ合意ではない」と繰り返してきたにも拘わらず、共同声明第3項で、幅広い分野での今後の本格交渉を約束し、“部分合意”を受け入れた。異形の大統領の選挙対策に迎合した忖度だ。
などだ。

公表文書に関する政府答弁の言い訳・屁理屈-①緊急輸入制限・農産品特恵待遇
「牛肉・豚肉・ホエイの蛋白質濃縮物・ホエイ粉及び生鮮オレンジ緊急輸入制限措置運用に関する日米交換公文」第1項(a)(b)では、「SG措置が取られた場合には、発動水準(の数量)を一層高いものに調整するため、協議を開始(抜粋)」「対米国と対CPTPP原参加国のSG発動基準が合計数量に基づいて修正される場合は(文言圧縮)、協定のSG適用水準の条件について合意するために協議する(抜粋)」と規定されている。
更に「米国は将来の交渉において、農産品に関する特恵的な待遇を追求する」(付属書Ⅰ
第B節第1款一般的注釈5項)とも記した。
 安倍首相:「(牛肉SG発動の場合は)協議開始を約束しているだけで結果を予断していな
    い」(10月24日衆院農水委)「(第2弾の交渉や対米特恵的待遇)どの分野で交渉するか協議する、現時点で予断を持って申し上げるのは差し控える」(10月24日衆院本会議)
 SG発動基準数量のCPTPPとの一本化については“合意するために協議する”と何の
担保もない。一方、発動基準引き上げについては“一層高いものにするために”と目的が明確で、また“特恵的待遇”も明確な表現なのに、答弁は「協議を約束しているだけ」と否定すると共に「(協議の行方は)予断しない」と妙な答弁だ。

政府答弁-②日本車・部品の関税撤廃
自動車・部品の関税撤廃も「関税撤廃に関する更なる交渉の対象となる」(付属書ⅡGeneral Note7項※日本では非公表)と“~に関する交渉”と一般的な表現しかされていない。
安倍首相:「自動車は関税撤廃が前提とされている」(10月24日衆院本会議)
どう読んでも答弁につながるような文言は見られないのに、このような“断言”も常識では全く納得できない。

政府答弁-③米国の2重のWTO違反容認
まず、日本車・部品を除けば関税撤廃率は、WTOで“協定”とされる目安の90%を大きく下回るにも関わらず、“今後交渉する”というだけで強引に“協定”とし、更に、各国がWTO違反として米国を提訴しているにも関わらず、米国通商拡大法232条による追加関税や自動車の数量規制を明確に排除せず2重にWTO違反の容認とせざるを得ない。
安倍首相:「(通商拡大法232条、数量規制)口頭で確認し日本側発言は記録」」(10月23
日衆院外務委)
 異形の大統領にとっても本命と言える自動車問題に関わる日本側の懸念については、「協定が誠実に履行されている間、協定・共同声明の精神に反する行動を取らない(共同声明第4項抜粋)」と訳の分からない文言に頼るだけ。米国は、追加関税・数量規制に関わる米国の常套手段の安保上の盾は、明確に協定第4条本文と同条の(b)で権利を留保している。“口頭、日本側発言を記録”だけの答弁とは大きな違いだ。

政府答弁-④発効後4ヶ月以内の次なる交渉
 共同声明の第4項は「発効後4ヶ月以内に協議を終え…サービス貿易・投資、その他の課題…交渉を開始(抜粋)」とし、春以降の本格交渉を充分に予想させる。
 茂木外相:「再協議については、自動車・部品を想定しており、農業含めそれ以外は想定
していない」「互いに合意したものしか交渉しない」
安倍首相「新たな協定を結ぶか否かも含め予断を持っていうのは差し控えたい」(10月24
日衆院本会議)
 昨年・今年の共同声明とも本格交渉につながる文言であり、米政府は1年前に議会に対してTPPを上回る内容を含む「対日交渉目的」22項目を正式文書として通知している。日本側の願望はとても通用するとは思えない。

 公表資料についての日米の1番大きな違いでかつ問題なのは、貿易協定の付属書Ⅱの米国の輸入品に関する文書が翻訳もされず、英文の文書も日本政府自身が公表していないことである、同じことがTPPの国有企業章の付属書Ⅳの留保措置(協定の主要な規定について適用しない国有企業の国別リストで、73ペ―ジに渡り掲載)でも行われた。政府は「日本は留保すべき対象が無い」ということを理由としたが、実質的に日本以外の全ての国(シンガポ―ルは協定条文に続く附属書17-Eで実質化)が相当数の重要な国有企業を留保しており、①日本政府が国有企業の公共性について考慮していないことの表われでしかないことであり、②同時にこのような隠蔽は協定交渉の是非についての評価を国会も国民も出来ない、という点で問題とせざるを得ない。

今回は始まりに過ぎず、春にはトランプの胸三寸次第で、TPPを上回る交渉を迎えることとなるだろう。
(JAcomの許可を得て転載)

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