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zoom RSS 【海外情報】ジェーン・ケルシー:新たな世代の自由貿易協定がアルコール政策に及ぼす影響(後編)

<<   作成日時 : 2012/04/18 07:42   >>

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4月9日付「ジェーン・ケルシー:新たな世代の自由貿易協定がアルコール政策に及ぼす影響(前編) 」の続編です。2012年2月にタイのバンコクにて開催された「世界アルコール政策会議」におけるジェーン・ケルシー教授(ニュージーランドオークランド大学法学部)の発表論文です。翻訳ボランティアチ−ムで翻訳をし、掲載します。(翻訳担当:田所・近藤)

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(C)THE JOURNAL


■国境を越えたサービスの提供

アルコール業界の戦略は高級な商品を世界的な規模で販売することに集中しており、広告、表示、健康への注意書きなどにおける規制の相違を極小化し、広告媒体全体を通して邪魔されないように要求している。
国境を跨ぐサービスに関する規制は、特にある特定の分野において、中央、地方の行政が市場アクセスや市場拡大に制限を加えることを排除しようとしている。特に既に供給が適度に行き渡っている地域への新規のアウトレットの出店を禁じる経済必要度テスト、またサービス提供の規模の制限などの定量的な制約を禁止している。異論のあるところだが、それは禁止事項をも含んでいる。
WTOでは、サ−ビスの範囲は政府が一覧表で対象範囲を特定したル-ルに従うことになるが(ポジティブリスト方式)、TPPAではネガティブリスト方式を条件とすることになるだろう。これは、政府が明確に否定しない限り、サービス、遠隔通信網に載せる広告宣伝、及び流通販売へのコンピューターの活用など、アルコ−ルに関連する全ての国境を跨ぐものは、これらのネガティブリスト方式により規定されることを意味する。これまでアルコール政策は一般的にそのようなリストには含まれてこなかった。
それに加え、必要度テストを適用する国内規制に対する制約、技術的な基準(警告や広告の制限を含む)や酒類販売免許に対する最小限の負荷義務等、TBTに類似する規制がある。これらの規制がWTOにも及ぶかどうかは確定的ではない。TPPAの下では、制約がさらに強くなりサービスの「質」を達成する方向に向けられている−これは国民の健康を目的とする正当な政策を如何に追求するかということへの制約を暗示している。

■相互承認、収斂、及び調和

通常、世界規模で統合された流通にとっては製品の基準が一致していないことは障壁と認識される。そのことはサービス、特に宣伝や販売にも当てはまる。TPPAはこれを相互承認の仕組み、即ち収斂と調和についての議論を通して提起している。豪州とニュージーランドのトランスタスマニア相互承認協定(TTMRA)は最適慣行の仕組みとされている。その協定が最近アルコールとタバコにおいても問題となった。
 2011年3月にオ−ストラリアの独立蒸留酒有限会社に替わって提出されたニュージーランドのアルコール改革法案は、アルコ−ル改革法におけるRTD・飲み易い低アルコ-ル飲料(Ready to Drink)に対する規制は、トランスタスマニア相互承認協定、及び豪州・ニュージーランド経済関係緊密化協定と食品基準規則との原則と精神に違反すると批判した。彼らはまた、これはWTOにおいてニュ−ジランドが負っている“技術的貿易障壁に関する義務”に抵触するものであると主張した。食品基準規則の変更には“非常に長期の協議”が必要であり、その過程では間違いなく業界が猛烈な介入をして来ることになる。それ以上に、彼らはTTMRAの下で制定されているニュ−ジ−ランドの新たな規制を迂回して、豪州では適法に販売出来る、より高濃度のアルコールを輸入することもできたのである。
豪州のプレインパッケージ法においてはこれとは逆の状況が発生した。
ニュージーランドでは同様の法律がないため、新たな立法を出し抜いて、タバコをニュージーランドから輸入し豪州内で合法に販売することができるのだ。プレインパッケージ法の施行を認める豪州の法規に基づき、豪州政府はこの不合理な状態をどう処理すべきかニュ−ジ−ランド政府と協議するため、2012年10月1日から最大12ヶ月のTTRMAの一時的例外適用を発動した。この例外措置は、TTRMAに参加する連邦政府、州政府の3分の2の承認があれば、ニュージーランドの同意なく、更に1年延長が可能である。もしニュージーランドが同様の法律を通過させなければ、豪州は永続的な例外措置という手段、そのためには加盟政府全ての合意と業界との広範な協議を必要とするが、を探ることも有り得よう。
TPP参加国で同様のことがされれば、アルコール政策は最も低水準の共通基準にまで引き下げられるだろう。最初は危険を限定的にしようとするだろうが、その基準を予測することは不可能であり、協議の状況は国民の健康に関する革新的な法律を優先しそうもないことを示している。

■国有企業

国内の流通業者に対する国家または地方政府による障壁、即ち国家独占もまた、標的となっている。強い反対を受けているが、米国は最近国営企業(の優遇措置)への制約を含む提案をしてきている。現段階でその内容は明らかにはなっていないが、全ての国有企業と国の管理下にある企業について、公然・非公然にでも競合民間企業にとって不利とならないよう、完全に商業ベ−スで運営されるべきであるという内容のようである。国有のアルコール流通・小売の独占企業もその規制に含まれることになりそうである。繰り返すが、政府は国民の健康に関係するものは例外となると予想しているが、独占形態が国民の健康、保護主義や雇用目的に複合的に資しているとされれば、ことは容易ではなさそうである。

■B. 投資の保護及び投資家対国家間紛争

TPPAによる受益者として、国家ではなく民間企業の関係者が、投資に関する章を特に重要なものにしているUSTRの意見公募において、サービス業界の連合体、米国商工会議所そして米国緊急貿易委員会は皆、強力な投資家保護とそれを強制する仕組みが最優先課題であると主張している。
投資家と投資の権利・保護は目新しいものではないが、近年益々重要になってきた。TPPAは米国型の相互投資協定を引き継ぐものとみられる。オバマ政権がその協定の見直しを行ったが、既存の協定に対する支持派である企業と批判派である市民団体とに諮問委員会がハッキリ分かれたため、そのままにしてしまったからである。投資の定義は、登録商標、株式・所有権、アルコ−ル製品の製造・販売免許、そして流通協定を含む広範な全ての資産にまで及んでいる。
保証されなければならない最も重要なものは、無差別・無制限の市場へのアクセス、公平で平等な扱い、及び資産没収に等しい政府による措置からの投資保護である。

攻撃対象となり得るアルコール政策の事例としては以下のものがある。
●商標・意匠に著しい影響を与える、アルコール飲料のラベルに表示された健康への生々しい警告文と写実表現。
●商品の陳列、配置、生産地、営業時間への規制、特売のための大量仕入れを妨げる最低価格規制。これらは、総体として販売活動を阻害し、ひいては利益と資産価値を引き下げるものとされる。
●香料入りのアルコール含有清涼飲料水を制限する新たな規制。これらは外国の投資家の事業継続をあまり利益の上がらないものにするとされる。
●未だ低い消費水準にある発展途上国における、アルコール販売と販促活動
に対する厳しい規制の導入。

国家が投資規則の及ばない法律・政策の分野を挙げることは可能である。
しかしこれらの例外条項は、政府による没収や、投資家が通常依拠する最低限の処遇基準には適用されない。これら投資家への保証措置が政府の政策に対してもたらす煩雑な議論を回避するため、アメリカや他のTPPA参加国は現在、公的保健政策は政府による没収とは見なされないとする付属説明書を加えている。彼らはまた「公平で平等な扱い」についての仲裁者による勝手な解釈の余地を狭めようとも試みている。しかしながらこれらの新たな条項は足並みが一定せず、議論も尽くされてはいない。
米国のほとんどのFTA協定において「国民の健康を守る必要性」による例外条項は商品やサービスの貿易には適用されているが、投資には適用されていない。投資の章がアルコール政策に与える意味を評価するためには、業界がその規則をどのように利用するかを理解することが重要である。協定への参加者である国家加え、ある国の一投資家は直接他の国家に対し民間の国際法廷の場で権利を行使することが出来ることとなっている。紛争の過程は第3国には秘密にされており、主要な関係書類と裁定結果の公開も限定的、もしくは時には公開されないこととなっている。弁護士による準備書面は時には受理されるが、公共の利益代弁者の発言権はない。
投資家がこの規則を行使できるということは、投資家はその属する国に依存する形で投資受け入れ国に対して紛争を持ち込なくても済む、という魅力ある手段を投資家に対して提供している。投資家の母国が外交、経済および政治的には相容れないような利害への理解をしてくれるため、それらの企業は、仲裁過程をより有利に支配することができる。
さらにいくつかの国は、自らがアルコールに対する制限を進めている場合は法廷で争うのを嫌がる傾向にある。
投資家対国家間紛争解決は、その案件限りの特別な法廷で扱われ、規則も変わりやすく、悪名高い特異性を持ち、たとえ国家が確固とした反論理由を有していたとしてもその結果は不確実なものなのである。
かつてフィリップモリス社が、ウルグアイと豪州のタバコ政策を相手取った紛争のように、投資家達は投資受け入れ国との協定を都合良く利用できるように企業の国籍を配置し、「(有利な)条約漁り」をすることが出来る。もし、勝利した場合、通常は賠償金と裁判費用を得ることが出来るが、通常国家間の紛争処理ではそれは保証されてはいないものである。

現在のタバコ規制に関する法律に対しての二つの紛争を見ると、アルコ−ル政策に対して投資家が始めた挑戦がどのように形成されるのかをうかがうことが出来る。

■フィリップモリス対ウルグアイ

この不服申立ては、スイスとウルグアイの相互投資協定(BIT・Bilateral Investment Treaty)に基づき2010年1月に国際投資紛争解決センター(ICSID・International Center for the Settlement of Investment Disputes)に提訴されたものである。原告は、(米国に本籍を持つ)以前のフィリップモリス株式会社、現在は米国籍のAltria Groupが保有するフィリップモリスインターナショナル、の子会社であるウルグアイの現地法人とスイスに拠点を持つ2つの持ち株会社である。この提訴は、2009年にウルグアイの禁煙計画の一部として導入された3つの要件に対してのものである。

1)一つのブランドではただ一つの商品のみに許されている、「軽い:LIGHT」というような誤解を招く商品名の使用禁止
2)「タバコのパッケージに表示されなければならない「(タバコの害を示す)挿絵」
3)タバコのパッケージの下部の50%から80%に増やすこととされた健康被害の警告文
フィリップモリスは、投資が根拠のない規制に従わされているとして提訴した。

A)余りに幅があり、また政府による国民の健康という目的との合理的な関連が欠如している、B)一つのブランドに一つの商品名しかを使用させないという制限は、フィリップモリス・アジアにおける多くの商標を没収するに等しいものである、C)ウルグアイは、法に関する安定的で予想可能な環境による「公平で平等な扱い」を提供しないこと、またWTOに定める知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS・Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)に基づく同社の知的財産を犯すことにより、同社の正当な期待を挫折させた。

同社は損害賠償と同規則の差し止めという異例の救済策を求めている。さらにその提訴にあたっては、相手国政府への6か月前の事前通告をしなければならない、また、投資家対国家間紛争処理の少なくとも18ヶ月前にその母国の裁判所に対し提訴をしなければならないという、BIT(スイスとウルグアイの相互投資協定)条件を回避しようとしている。フィリップモリスはBITに定める「最恵国待遇」の条項を使い、ウルグアイが他の国々との相互投資協定で約束した、煩わしさの少ない基準に対する権利があると主張している。同様な主張がもう一つの、注目を集める仲裁裁定において成功を収めている。
紛争の申し立てを受け、ウルグアイ政府は、健康に対する警告文の面積を65%にまで減らし、「ライト」なタバコの販売許可を与える等のいくつかの法律改正を提案したと伝えられている。この動きは、公共の保健問題に取り組む活動家達の怒りを誘発し、企業の圧力に屈したものだと政府を非難している。ウルグアイに本拠地を構えるタバコの害調査センターもまた、政策に対するこのような圧力の容認は、閉ざされた空間での喫煙の禁止や広告の禁止に対する新たな挑戦(訴訟)を誘発しかねないと危惧している。以来、同国政府は本来の政策を堅持するとしている。

■フィリップモリス対豪州

フィリップモリス・アジア社は、1996年の豪州と香港による相互投資協定に基づき紛争を開始した。
ハワード政権が2005年に発効した米国と豪州のFTAに投資家対国家間紛争解決手続きを含めることを拒否して以降、タバコ会社は「条約漁り」の機会を見つけるため豪州のその他の国とのBITを再度調べ始めた。フィリップモリス・アジア社は、プレインパッケージ法が、フィリップモ−リス・オ−ストラリアの株式として自らが所有あるいは支配している投資、フィリップモーリス・オ−ストラリアが所有しているフィリップモ−リス社(PML)の株式、そしてPMLの知的財産と営業権に影響を及ぼすと主張している。その申立ては、UNCITRAL・国際商取引法委員会(United Nations Commission on International Trade Law)の規則に基づきその案件限りの特別法廷に持ち込まれており、フィリップモリス・アジア社はシンガポールで開廷されるよう要望している。
同社は、プレインパッケージ法の廃止とそれまでの損害を補償されることを求めている。もしこれが認められると賠償額は数十億ドルになる可能性がある。
申立てには3つの大きな要素が含まれている(彼らの全ての主張ではないが)

1.タバコの包装紙に表示される商標は最も価値ある資産である。この権利を侵すことは投資・会社の価値を損ない、同社を間接的に政府が没収することに等しい。
2.プレインパッケージ法と、喫煙を減らすという目的との相互の因果関係対する信頼性の乏しい根拠により、公平で平等な取扱いという権利が侵害されている。TRIPSおよびTBTに基づく投資家の知的財産権が侵害されている。国が目指すところは、他のもっと負担の少ない方法によっても達成可能であったはずある。
3.豪州政府はフィリップモリス・アジアの投資に充分な保護と保証ができなかった。

豪州政府は、自らの主張と対応をそのウェッブサイトに掲示してきた。その中で、彼らは2つに別れた反論を示した。
まず、フィリップモリス・アジア社が豪州・香港の相互投資協定の下で起こした紛争申し立てに対し、同社はフィリップモリス豪州の株式を2011年2月23日までに取得しておらず、一方豪州政府は明らかに、それまでに新たな法律(プレ−ンパッケ−ジ法)を成立させているため、新たなオーナーによる投資の段階では、既に価値は毀損していた
もしその論争(そしてもう一つの法律上の課題)が失敗に終われば、政府としてはより実体的な主張に対して精力的に反対をしていくだろう。

BITがフィリップモリスを引き付ける理由の一部は、例外規定の欠落、あるいは政府による没収に関する曖昧な表現、あるいは待遇の最低基準にある。しかしながらこれらの防御策は注意深く検分される必要がある。
通常、投資家の主な目標は政府に法案を廃止させることであり、脅しが最初の段階となる。どの程度の割合で成功するのかは分からないが、中央アメリカ自由貿易協定CAFTA( 曖昧な表現を含んでいる)に基づく米国の炭鉱会社からの環境に関連した投資に関する提訴に対し、ペルー政府が賠償金を支払って決着したという噂が流れているのは気がかりである。新たな政策による先例が著しいほど、投資家は特別裁定制度による突飛な裁定に気づき、彼らにとって訴訟を試みることが重要な意味を持つこととなる。この現実が、現在議論されているTPPAの見えない機能を、特に重要なものにしている。

■透明性と規制の一貫性

自由貿易協定は徐々にそして益々、情報の開示と企業利益への関与とを政府に対して義務付けるようになってきた。
TPPAはニュージーランド、チリ、シンガポール、そしてブルネイによる環太平洋戦略的経済提携協定を基にされているとされている。透明性に関する章では、各加盟国に対しできる限り、事前に彼らが提案するどんな法律、規則、手続きまたは一般の行政手続きを公表し、出来るだけ利害関係者や加盟国が意見を述べられる機会を与えることを求めている。実際、TPPAは更なる条件を付している米国のFTAに強い影響を受けている。最近の米韓FTAの透明性の章では、政府が利害関係者に対し可能な限り意見表明の機会を提供することを求めている。
一方の政府は、公式に通知された段階でなくとも、他方の政府が協定の運用に影響を及ぼすと考える、既存のあるいは提案中の法案に関する情報を提供したり、質問に対して答えたりして速やかに対応することを求められている。この協定に影響を及ぼすような新たな法令を政府が導入する場合、政府はその導入目的と理論的根拠を公に説明し、意見公募期間に寄せられた重要で本質的な意見に答え、さらに当初案に対する実体的な修正案についても説明しなければならない。
同様の表現もしくはより厳しい内容がTPPAに盛り込まれようとしている。
このことはアルコール製造業者、小売業者、広告業者、そしてロビースト達がアルコール政策に対して影響を及ぼす権利を要求し、政策決定の過程から排除されたり遠ざけられたりした場合には不満を表明し、政府に対し彼らの主張に明確に対応するよう強制する動きに拍車をかけるものである。
透明性の条項は、ニュージーランド、豪州、そして米国が推進した、規制の一貫性についての新しい章により補完されている。この草案は2011年8月に流出した。この章はAPECやOECDの原則や指針に基づく「最適慣行の規則」を推し進めようとするものであり、もしこれが採用されると「規制の一貫性」の章は4つの主な効果を有することになる。

(i)企業が国家およびTPPA全体に及ぶ政策や規制の制定に参加する権利を確固たるものにする。

この原文は、政府に対し、様々な機会を“利害関係者”(その定義はまだ定まっていないが)に提供することを強く促している。最も重要な特徴の一つは、規制の一貫性の推進に際して“最大限の効果”を可能にすることであり、透明性に関する章における規則を推進する“重要な役割”をも含む。 
それは“規制の策定と運用に対する幅広い利害関係者による貢献”の重要性を認識させ、さらに政府に対しては、政府の当事者とそれぞれの利害関係者との協働をどのように作り上げるか、を検討するように促すものである。
TPPの規制の一貫性に関する拡大委員会は、この協定による規制の一貫性への対応に関する意見を表明できる“意味のある機会を、利害関係者のために”保証する仕組みを速やかに作らねばならない。理論上この義務は国民の健康を主張する人々にも提供することにもなるが、大企業と業界のロビーストのためを意図している。

(ii) 規制の影響に対する意見書が求められている。しかしその基準と方法論は、本質的に小手先の規制と最小限の制限を政策とする傾向に偏ったものである

政府は、政策策定を中央において調整することを容易にするための、そして法律を見直すための、手順や仕組みを設ける真剣な努力をする義務を負っている。規制の与える影響に対する意見書を活用することは義務ではない、しかし意見書は「規制の忠実な実施」を促進するものであることを求められている。RIAs・規制の与える影響に対する意見書(Regulatory Impact Statements)は以下のことを明確にするものとされている。

●問題の重要性に対する評価と法的規制の必要性を伴った、明確な問題点と政策目的
●政策目的を達成する上で、潜在的に有効でかつ相当程度に実行可能性のある選択肢
●選択された選択肢が、波及効果を考慮しつつ、費用対効果の分析を基にして利益を最大化するように政策目的を達成すると結論づける根拠
更に具体的な要素としては以下のものを含む
●政策目的を達成するために規制が必要なのか、そうでない自発的な方法でよいのか
●規制を実施しないことを含め、可能なそれぞれの選択肢の費用対効果を評価する、ただし時には費用対効果を貨幣価値に換算することが難しいとも認識しておく
●何故その選択肢が他の選択肢よりも優れているのか説明をする、但しそれぞれの利益の比較を含むこと
●最も無理なく入手出来る科学的、技術的、経済的な情報及びその他の情報
これらの基準は、豪州とニュージーランドにおいて適用されているRIS・規制の与える影響に対する意見書が要求するものほど細かくはないが、今後間違いなく既存の事例の情報の影響を受けることになるだろう。その章はまた、競争偏重の軽微な規制を推進する「最適慣行規則」に関する、OECDやAPECの指針との間での相互参照を行っている。

RISは事実上、TBT貿易上の技術的障害(Technical Barrier to Trade)協定の慣例的国内版である。熟慮を必要とする費用対効果分析と基準は、商業利益に定量的な影響を及ぼす革新的政策に対して本質的に偏見を有している。アルコールに対するより強い政策への反対勢力は、調査と助言の妥当性と客観性、費用対効果の評価の計算方法、より負担の少ない代替案の不採用、そして業界の主張の拒絶に対し、異議を唱えている。
これらの攻撃は既に生じている。豪州ではRISは、“法律遵守に掛かる中程度の費用、または企業や個人に与える重大な影響、あるいは経済的要素”を伴う提案が、内閣に提出される前段階において不可欠なものである。
Office of Best Practice Regulation・豪州最適慣行規則庁によると、Department of Health Ageing・健康高齢化局はプレインパッケージ法に対するRIS草案を用意したが、最適慣行指針を満足させることはできなかった。その時点で同政府は提案についての決定を下したため、RIS意見書についてさらに検討をする余地はなかった。最適慣行規則庁では、その政策は法に準拠しておらず、実施後1、2年後には実施結果の見直しが必要との報告を行った。

次の節は、公の資料では見ることが出来なくされており、この見解が適格かどうか明確ではない。

ニュージーランドの商工会議所によると、過去3年間において政府の重要な政策提案のうち、たった半数しかRIA意見書の基準を満たしていないとのことである。
特に保健省の政策機能に関する報告書は厳しい内容で、同省の政策機能は意見書が必要としている基準を満たしていないとしている。
もし、TPPAにおいてこれらの義務を提案している各国の“保健所管省”が、法的適格性の問題であれ、手順や基準が公的保健政策立案に適合していないことで、自らが基準を満たせないとしたら、他国特に発展途上国に同様の義務を負わすのは無謀でしかないのである。

(iii)政策決定を伝える情報の開示の必要

政府は、透明性の章に基づき、法務当局が“適切に”一般国民が自ら規制措置、補足資料、規制の分析やデータを入手出来るよう用意し、また可能な場合はオンラインで検索閲覧しコピ−出来るようにすることを、保証するよう求められている。
透明性に関する章の定めや、TPP加盟国の公開討議や投資家対国家間紛争を含む国際的な仕組みを通して、詳細な情報開示により、アルコール業界とその関係者が政策決定の経過の状況に意義を唱えるための追加的資料の提供、及び国内の政策策定経過の中に存在する資料の出所の提供が行われる。豪州のタバコ業界は、Freedom of Information Act・情報の自由法のもとで保証されたこれらの資料や関連するeメールの交信記録を用いて、プレインパッケージ法に異議を唱えている。規制の一貫性の章は新たな規制に限定される訳ではない。規制監督局は、既存の規制について、環境変化により不要あるいは時代遅れになったのか、あるいは効果を強化しうるのかすべてを見直す手順を有することが求められている。
一貫性の章は従って、アルコ−ル業界が既存の規制の見直しを求めることが出来るよう、現在進行している検討過程を提供することも出来る。政府が毎年、遅くとも翌年までに公布を計画している新しい規則に関する課題を公表するだろうという期待があると、政府は迅速な決定を抑え気味にするだろう。一貫性の章には、政府が公的保健の目的を守るように見える、政府による規制の権利についてのいくつかのcomfort words・曖昧な表現が含まれている。この原文では、各国政府が、独自の規制の優先事項を定め、そのための法的措置を設け実行する権利を認めている。しかしながらこの権利は、他の章に含まれた様々な政策の選択肢や政策決定の過程における制約を受けるものである。
さらにそれは、公共及び勤労者の健康と安全を守るなどの、公的政策目的を達成する上で規制が果たす機能を認めている。補足説明では、協定加盟国が“正当な目的のために規制をする権利に対する追加的な指針”を含めるべきか否かを決定する際には、この(TPPAの)原文を見直す必要があるだろうとしている。これは、加盟国のいくつかは制約を望んでおり、あるいは、少なくとも正当な目的とは何であるのか指摘している、ということを示唆している。
更に、規制の一貫性の原則は、加盟国の国際的な義務を考慮することの重要性を認めている。「考慮すること」ということは、法的には弱い義務である。それでもそれは国際的な保健・人権に関する文書に基づく提言に根拠を与えるものである。しかし政府は同時に、国際的な通商上の義務も考慮する必要があり、そのことは“規制に関する最適慣行”のための目的と手法に傾斜することである。
政府が、国家レベルやTPP加盟国の利害関係者による助言と、国際的な様々な義務におけるバランスのあり方を、どのように理解しているかを確かめることは興味深いことだろう。検討過程が非公開であるため、それが議論されたのかを知ることは出来ない。実際上は、TPP協定では情報交換、対話と会合を通じて商業上の利害関係者の役割を強化することが想定され、特に新たな規制で影響を被りかねない権利を強要するために、協定の紛争処理手順を利用する力を持つのは投資家たちだけである。

■アルコール政策とその選択肢に対する影響

規制の一貫性と透明性の義務は、具体的な規制の決定とそれに関する進行中の議論への助言の権利を保証し、企業の商業的利益に悪影響を及ぼす場合には投資家対国家間紛争という権力を使い、国家の決定に対し脅威を及ぼしまたは実際に挑戦をするための、既に企業に与えられている手段を拡大するものである。これらの手順は、商品・知的財産権・投資と国境を跨ぐサ−ビスに影響するTPPAの他の章の義務によっても補強されている。そしてそれらは、規制に対応するための最も負担の少ない手法を必要とし、影響を被る市場関係者に意見を求めるものであるだろう。
それは、基準となる商品・サービスの規則を支配するものである。アルコール政策においては、この協定における特権的“利害関係者”もしくは“関心を有する者”の範囲は、製造業者・流通業者・価格設定と販売業者・広告業者・通信伝達メディア・そしてスポーツ業界の一部にまで広がる企業関係者であり、更には資金力に富み既に国家のアルコール戦略の草稿策定に加わり助言を与えることで政策過程に影響を行使しようとしている“社会的な側面を持つ”組織にまで及んでいる。これら巨大な企業は、先例となる政策に対し、例えその法的な根拠が弱くても訴訟を起こし長く戦うだけの資金的な余裕がある。前に述べたとおり、彼らはこれらの先例作りに異議を申し立てないということが耐えられないのである。
しかしそうは言っても、正式な紛争は、望ましい結果を確実にする上では最も好ましからざる方法である。世間の注目をあまり引かない方法で反対する“抑止効果”がより効果的なのである。従って、政策案を廃案にし、もしくは修正するという圧力は、様々な手段、例えば多様な訴訟関係者により次第に訴訟を増したり、時には同時発生的な手段などが考えられるべきなのである。WTOと既存のFTAは既に以下のような様々な手法を提供してきた。そしてこれらは、TPPAにより強化されることだろう。

・TBT・貿易に対する技術障壁(Technical Barriers to Trade)に対する対応措置の通知
・TBT 及びTRIPS知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)委員会における検討
・WTOの貿易政策見直しの仕組み
・WTOにおける審議会、委員会、上訴裁判所に対する訴訟、及び法令遵守のための、紛争解決の仕組み
・相互投資協定、及びFTAにおける投資の章に基づく投資家対国家間紛争解決
・FTAにおける正式な国家同士の紛争解決手順
・301条「貿易障壁」に関するUSTR の報告書と公聴会、特別301条における知的財産権の侵害、及びTBTに関する報告書

々がTPPAに関して知っていることは、その新しい規則と仕組みが、以下のことを通じて規制の持つ不安を一層増すということである。

・他国による、直接のあるいはTPPの拡大委員会などの国際的な回路を通しての法律違反に対する訴訟、及びあるいは強制的法適用の恐れ
・自国を経由しての、もしくは投資家対国家間紛争仲裁裁定という手段による、企業関係者からの法律違反に対する訴訟、及びあるいは強制的法適用の恐れ
・国家政策の理論的根拠の侵食、及び規制に関する影響調査の過程における業界による補完的調査
・協定に違反したという非難、もしくは自由貿易の優等生であるという国家の評価を損なったという非難を回避するための、一般的にはより強力な“貿易所管省庁”から“保健所管省庁”に対する圧力
・投資資本の国外逃避やストライキについての、投資家からのひそひそ話や脅しなど、対内投資への影響を懸念する“財務所管省“からの圧力
・アルコール管理の政策を担当する“保健所管省庁”や他の省庁による自己検閲

これらが重なり合い、政府によるアルコール管理政策の策定に対する攻撃が増加し、国民の最大利益のために政策を策定するという主権と責任が著しく侵食されることとなる。

(以上)

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