TPPから見える風景―米中対立から見えるTPP11、日米交渉の風景は?―

2021年2月18日(木)
「TPPに反対する人々の運動」近藤康男

 前回1月掲載のコラムで、米中は対立しつつも、共に地政経済的意味も含め“経済圏拡大”と言う点での利害をCPTPP(TPP11)対して持っていることを紹介した。特に米国はアジア地域での主要な課題について日本の主導権を期待しており、また日米“本格交渉”に対しては内政上からの利害も強い。 
今回は、日本に向けられる可能性のある懸念について触れたい。

似た者同士、米・中のCPTPP(TPP11)への立ち位置
 米中とも、この間日・EUが通商協定を広げた結果、経済圏と言う点で日・EUに劣後しており、成長のアジアへの経済圏拡大を強く持つようになっている。中国は国内産業育成のためインドが交渉から離脱したことでRCEPにおいて主導権を発揮し、この点で米国は対中国でも後れをとっている。
 また、この間の対立の中で、米国は国防権限法・アジア再保証推進法・輸出管理法・国際緊急経済権限法など、中国も改正国防法・輸出管理法などをベースに、安全保障・国家利益(先端技術含む)の絡む分野では輸出入や対内・対外投資に対する規制を強化してきている。内容はかなり似通っており、TPP11参加にあたって留保措置(≒例外適用対象)を求める点で同じ立場にありそうだ。
 留保措置について言えば、安保・公共・政府調達・国家利益に係る分野での例外は、中国にとってのハードルと言われる国有企業・政府調達だけでなく投資についてもTPP12≒TPP11において、付属書掲載と言う土俵が用意されている。ただ、当時に比べ覇権争い⇒規制強化を経てきた両国にとっては共にハードルは高くなっているかもしれない。参加のタイミングとの関連で国有企業章(発効後5年以内)・政府調達章(同3年以内)における「適用対象拡大のための見直し協議」が新規参加国にどのように適用されるのかも注目点だろう(TPP11発効は18年12月30日)。
 また、中国は、米・中貿易戦争への対応やEUとの投資協定を睨みながら知財保護・投資自由化・独禁法改正など規制の緩和や市場開放を進めているがこの点の評価も重要だろう。
 一番の対立点は台湾の参加意向への対応かも知れない。中国の姿勢がが問われることになりそうだ。労働の章も人権問題(強制労働)が絡み中国にとってハードルとなるかもしれない。
 以上を考えると、両国にとっては参加の決断のタイミングも課題だ。バイデン政権は、当面急がないものの参加に際しては「再交渉」を求めるつもりだが、トランプ氏の影響力や民主党内左派の影響力が根強いようであれば21年中間選挙や4年後の大統領選を前にしてのTPP復帰は楽ではない。そして中国の場合は国内改革の進展がカギとなろう。

新たな(潜在的)参加国を迎える日本にとってのTPP11の課題・問題点は?
 一つは、日本の協力を米・英双方から求められる中で、外交力を発揮できるのかという問題だ。この点では台湾の取り扱いへの対応は、日本にとって非常に微妙な問題だろう。
 次は日米本格交渉を睨んだ時にTPP11協定本体の「第6条の見直し規定」を主張できるのかという点と、英国の参加による日英EPAとの絡みだ。
 日本政府は“第6条”について、米国が復帰した場合には米国と他の締約国に対する乳製品などの低関税枠や牛肉などの緊急輸入制限発動基準(SG)の数量をTPP12での合計数量に戻すことが出来る(復帰無しの場合はTPP12の数量から米国分相当を削減)と説明してきたが、他国はそっぽを向いたままだ。
 更に、日英EPAでは豚肉・ホエイのSG発動基準数量(EU・英からの輸入合計数量が日EU・EPAの基準数量に達した場合に発動)、乳製品・加糖調製品などの低関税枠(日EU・EPAの枠が余った場合に事後的に英国に割り当てる。仕組み・運用改善を適宜協議)のような“歪んだ形”の合意がされており、TPPに伴い是正を要求される懸念もある。農産品については日英EPAの「発効5年後の見直し条項」もTPP参加の中で影響しそうだ。
 また、日英/日EUのEPA共除外されたISDS条項も日英EPAにおいては「一方の締約国がISDS条項を含んだ通商協定に参加した場合には見直し協議」が規定されている。米国もISDSに懐疑的で、TPP11では、合意署名11ヶ国中の7ヶ国がISDS排除・慎重な扱い・政府間協議優先の付属文書を交わしており、ISDSは少数派・時代遅れの条項となっている。ISDS反対運動としては「7ヶ国」を支持したい。

日米本格交渉における日本の懸念は?
2年後の米中間選挙と4年後の大統領選を控え、バイデン政権は、20年の大統領選での僅差の勝利を支えた労組(⇒バイ・アメリカン政策)・農民票(⇒輸出拡大)を意識せざるを得ない。18年9月、19年9月の日米共同声明でも協定発効後の本格交渉を約束している。
 既に昨年、米国議会、酪農団体も日本に対して農産物市場の解放を強く求める文書・声明を出している。
具体的な要求として留意すべき要素は以下の3点だ。
① 昨年1月1日発効の日米貿易協定付属書Ⅰ第B節では「米国は将来の交渉において、農産品に関する特恵的な待遇を追求する」と青天井の約束がされている。
② 18年12月USTR公表の22項目の「対日交渉目的概要」はTPPとほぼ重なる分野を網羅し、「バイ・アメリカン」政策、チ-ズでの地理的表示を否定し米国製品のブランド名要求など、バイデン政権の受け入れ可能なトランプ流「米国第一主義」が列挙されている。加えて、
③ 毎年3月末のUSTRの「外国貿易障壁報告書」で何が織り込まれるかも要注意だ。

(JAcomのコラム掲載分を、許可を得て転載)

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