TPPから見える風景-米中対立の中、TPPを巡る諸条件を考える-

2021年1月28日
TPPに反対する人々の運動
近藤康男

掟破りのならず者、人格破綻の異形の前大統領は、「米国第一主義」ならぬ「Me First」による4年間の脅迫外交と制裁関税を続けた後、株価以外は米国経済に何も残さず、また社会的には分断・対立・格差という深い傷を米国と世界に残したまま退陣した。

バイデン新大統領は何を、何処まで進めるだろうか?
 ジョ-ジア州上院決選投票で2議席取ったことは大きい。しかし、トランプ氏も現職大統領としての史上最高の票を獲得した。接戦の上の勝利故、バイデン氏はトランプ氏の政治的資産の余命次第で妥協を余儀なくされるだろうし、激戦州の農民や労働者の要求、エネルギ-・鉄鋼業界、を意識せざるを得ない筈だ。また党内では民主党左派との駆け引きも場合によっては桎梏となりかねない。
 報道から理解する限り、まずはコロナ対策・経済回復(対内投資・雇用・バイアメリカンや困窮者対策など)、対中政策では、強硬姿勢を基本としたうえで「最初の数週間は同盟国と協議して対応を決める」と発言をし、昨年1月15日に米中で合意署名された7分野の合意、特に中国による米国からの輸入拡大については「即座に動くつもりはない」との立場を明らかにし、制裁関税は多分“交渉カード”にすると考えられる。

昨年11月16日の記者会見での、通商政策「3つの原則」(11月17日付日経報道)
 第1の原則:まず国内投資で米労働者の競争力を立て直す:再生エネルギ-やITなど先
端分野に連邦政府が3千億ドルを投じて300万人の雇用を生み出す。
 第2の原則:雇用対策と環境政策を織り込んだ新しい通商政策方針を策定する。
 第3の原則:懲罰的な貿易手段は採用しない。
 通商協定については余り発言しておらず、TPPについても選挙中の発言あるいは就任後の報道官の記者会見(1月22日)発言からは「TPPは不完全」「TPP復帰には再交渉が必要」と考えていることが窺える。

バイデンの米国、日本が対中・対アジア政策の最前線に立つことを期待?
 昨年末から主として安全保障に関する重要な報告書・文書が公表され、バイデン政権においても同様の流れを引き継ぐ人事が公表された。
日本政府が重要なスポンサ-であり、これまでも12年第3次報告書で日本のTPP参加を推した、超党派と言われるCSIS米戦略国際問題研究所第5次報告書(20年12月の第5次アーミテ-ジ・ナイ報告)は「インド太平洋に軸足を置き日本に課題設定と多国間協力の主導を期待」するとし、Five Eyes(米・英・加・豪・NZが参加するUKUSA協定による情報・諜報関係の連携)への日本の参加や、日・米・豪・印戦略対話QUADの重要性を強調している。
1月12日に突然機密解除された前政権の「インド太平洋における米国の戦略的枠組み」や新政権の新設したインド太平洋調整官へのカート・キャンベル氏指名(いずれも1月14日付日経報道)もCSIS報告書と同じ脈絡にある。

中国は社会・経済・地政学的には孤立政策でなく経済圏拡大?
 中国の新たな大政策は、20年10月の第19期中央委員会第5回総会での提案稿において、「国民経済及び社会発展第14期5ヶ年=21~25年計画並びに35年長期目標に関する中共中央の建議」で“国内大循環を主体に国内・国際双循環が相互に促進する新たな発展の枠組みの構築を急ぐ”としている。「(WTO加盟後の)国際大循環を主体とした双循環」から修正しつつも国際循環を継続していると言えよう。
 そして、上述の方向に沿って通商外交政策の一環として20年11月合意署名のRCEPを主導し、更には11月20日のAPEC首脳会議の際に、習近平主席は「TPP参加の検討」を表明した。いわば“鬼(米国)の居ぬ間/鬼抜きの経済圏形成を急ぐ”動きだ。

米・中の利害交錯の中でのTPPを巡る枠組みを考える
 日本がこの間TPP11、日EU・EPA、日英EPA、RCEPなど、大型のEPAに参加してきたこと、あるいはEUと比べると、米・中が参加するFTA・EPA(経済圏)の範囲は限定的だ。つまり、米国、中国ともTPPに対して、“経済圏”と言う点での一定の利害を有していると思われる。
米国のTPP復帰は暫く先になると思われ、かつ復帰に当たっては国内の政治・経済的状況を踏まえ、再交渉を求めざるを得ないだろう。しかしその上でも対中戦略と言う観点でのTPPの重要性は否定できない。
一方中国については、米国ほどではないものの、経済圏の拡大という観点、米国との第1段階合意やEUとの投資協定への対応の必要性もあり、国内経済改革の梃子としても活用する上で、TPPへの参加の意味合いが考えられる。多分、台湾排除の可能性、米国との対話の場の確保としての意味合いや米国参加のタイミング、RCEPに比べて高いハードルに対し国内ル-ルとの関連での例外措置や猶予措置の獲得の可能性などを見極めながら参加の可否を窺うのではないだろうか?
 日本の通商外交は、“地域における主導権発揮”と言う米国からの期待が強い中で、英国の参加に加え、米・中の参加可能性、更には韓国・台湾による参加検討など、複雑に絡む要素に対してどのような立ち位置を取れるのかが問われことになるだろう。日中韓FTA交渉も並行している。

 (JAcomの了解を得て転載)

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