TPPから見える風景-合意に値しない合意と協定に値しない協定-

TPPに反対する人々の運動
近藤康男

日米経済対話、FFR、日米貿易交渉と、迷走の結果の日米FTA
 主要な通商協定であるTPP、CPTPP、日EU・EPAなどは、大筋合意以降合意署名迄に、4ヶ月から7ヶ月程度掛けている。しかし、日米貿易協定では8月23日に閣僚級協議大枠合意、9月25日に首脳間での確認がされたのち、10月7日にはワシントンで合意署名、米国側は20年1月1日の発効を目指している、というスピードだ。“丁寧な説明”という言葉だけいつも以上に飛び交っているが、通商交渉を経るたびに透明性は失われてきている。

17年2月首脳合意で日米経済対話が設置され麻生副総理・ペンス副大統領間の協議と事務レベル協議が2度ほど行われた。と思ったら18年4月首脳合意でFFR。8月/9月に茂木担当相とライトハイザ―USTR代表間の協議があったが、翌日には首脳合意でいつのまにか日米物品貿易交渉。そして今年8月第7回閣僚協議で大枠合意、その名も日米貿易協定と、迷走を続けてきた。

18年9月の日米共同声明https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000402972.pdf は、安倍首相の説明とは裏腹に、第4項で「協定の議論の完了の後に,他の貿易・投資の事項についても交渉」するとされ、第5項では「以下の他方の政府の立場を尊重する。-日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限」と“約束”などではなく“尊重”だけであり、交渉分野は青天井だった。

そして、18年12月、USTRはTPA法に基づき「対日交渉目的」22項目で、TPP越え満載の要求を公表した。この間日本は“TPP復
帰”と叫ぶだけで、米国は一貫して“日米FTA”を要求、結果はトランプ氏に軍配が挙がることとなった。

米国、EUは曲がりなりにも法に基づく手続き・権限・責任で通商交渉に取り組んでおり“法治主義=民主主義”だが、日本は単に“放置主義”で通商交渉をしていると言ってよいだろう。経済対話、FFRは何だったのか?
“パッケ-ジで合意”を自ら否定、大統領選優先か?

19年4月の閣僚協議後、茂木担当相は「貿易協定は個別に決めるものではなくパッケ-ジ合意なので全体が決まって合意になる」「(それは農業・自動車のことかと問われ)全体だ」と強調した。※会見録⇒http://www.cas.go.jp/jp/tpp/ffr/pdf/190416_TPP_kaiken.pdf

リンクは省略するが、事務方トップの渋谷和久政策調整統括官も7月の実務者協議後「全てがパッケージなので、この部分が決着したということはない」と繰り返した。

ところが、19年9月の共同声明の第3項では「関税や他の貿易上の制約、サービス貿易や投資に係る障壁、その他の課題についての交渉を開始する」(政府が“物品貿易”と拘っていた1年前の共同声明でもほぼ同じ文言だ)   
※19年9月の共同声明⇒http://www.cas.go.jp/jp/tpp/ffr/pdf/190925_TPP_statement.pdf

“交渉すること”が合意されただけ、「ウィンウィンの成果」と言えるのか?
コメや乳製品の低関税枠を除外したことなどTPPに比べマシな内容もあるものの、当初からの重要課題の牛肉では緊急輸入制限発動を危うくする余地を残し、自動車でも実質的には何も担保されないまま先送りを許し、交渉分野についてもTPP越えを含む青天井の本格交渉を約約束するなど全体として米国に押し切られたというべきだろう。
牛肉の緊急輸入制限発動基準も当面CPTPP11ヶ国と米国分の単純な合計数量のため発動が出来ない状況が続くし、日米貿易協定では「TPP11協定が修正されていれば、米国と TPP11締約国からの輸入を合計して、TPP全体の発動基準数量を適用する方式に移行する方向で協議することに日米間で合意」と、“方向で協議することが合意されているだけ”だ。内容は何も合意されていないし合意の保証もされてない。
もう1つの最大課題日本車・部品の関税撤廃も、「米国譲許表に更なる交渉による関税
撤廃」と明記(自動車・自動車部品に係る具体的な関税撤廃期間や原産地規則は本協定で規定せず。)、とあるだけで、これも内容は何も合意、約束されていない。
※19年9月公表の日米貿易協定概要⇒http://www.cas.go.jp/jp/tpp/ffr/pdf/190925_TPP_gaiyou.pdf

多くの国が提訴する中で、WTO違反を容認
協定概要の「3工業品・米国側」で、“※通商拡大法232条の扱いは、「両国は、両協定の誠実な履行がなされている間、両協定及び本共同声明の精神に反する行動を取らない」旨を首脳共同声明(第4項)で確認。数量制限、輸出自主規制等の措置を課すことはない旨は閣僚間で確認”としている。

10月7日に署名された協定関連文書には未だ目を通していないが、上記の文書では精神論と閣僚間の確認だけで、協定としての約束にはなっていない。曖昧なまま、トランプ政権の掟破りWTO違反に目を瞑ったと言われても仕方ない。
 

協定にもあるように、発効後には更なる交渉が始まることになっている。待っているのは、TPP越え満載、TPP以上の交渉分野を盛り込んだ「対日交渉目的」や、“(トランプ氏は)「遠くない将来に日本とまさに包括的取引をしたい」と新交渉に意欲を示し、薬価制度の見直しや金融・通信分野の開放も具体的に求めている”と報道されたように、本格交渉が待っている。

(JAcomの許可を得て転載)


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