日米共同声明及び日米貿易協定(デジタル貿易含む)についての分析

9月25日に公表された日米共同声明で、トランプ大統領は、「米国産品にとって70億ドルの市場が開かれる」と意義を強調、安部首相は「双方のウィンウィンの解決策になる」と応じた。ライトハイザ-通商代表は20年1月にも発効するとの見通しを示した。さらに発効後4ヶ月以内に新たな貿易交渉の対象範囲を決める。日本は自動車など継続協議の品目を対象とする方向とするが、トランプ氏は「遠くない将来に日本とまさに包括的取引をしたい」と新交渉に意欲を示した。薬価制度見直しや金融・通信分野の開放も具体的に求めている。(以上報道から)

1. 日米共同声明について
 19年9月25日日米共同声明へのリンク(日英併記)
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/ffr/pdf/190925_TPP_statement.pdf
(1)最終合意ではなく本格交渉の始まり
 重要なのは第3項で「こうした早期の成果が達成されたことから、日米両国は、日米貿易協 定の発効後、4か月以内に協議を終える意図であり、また、その後、互恵的で公正かつ相互的な貿易を促進するため、関税や他の貿易上の制約、サービス貿易や投資に係る障壁、その他の課題についての交渉を開始する意図である」だ。
 つまり、今回の協定は最終合意ではなく、「本格交渉に向けた始まり」だということ  が確認されたということである。
(2)本格交渉は果たして、先送り分野だけなのか?それともTPP越えに向かう道か?
報道によれば、日本政府は自動車など先送りした課題対象分野となるとしている。しかし、上記第3項の文言は、18年9月の日米共同声明の第4項や、先にトランプ氏が議会への正式な署名通知でうたった内容は幅広い分野に広がっているし、USTRが18年12月に議会に通知した「対日交渉目的概要」は、ほぼTPPと同一分野をカバーすると共に、TPP越えの内容を多く含むものである。
そしてその内容は同時に、日本政府が途上国などに押し付けたい、途上国の健全な発展を制約しグローバル企業が活躍しやすいルールにより構成されるもので、日本政府の方針そのものでもある。
農業分野を中心とする地域・農業者へのしわ寄せは、日本政府にとっては既定の方針の範囲であり、政府は譲歩とは考えてもいない。対策で済む問題と本気で思っている。
(3)更に言えば、他の多くの国と異なり、日本政府は異形の大統領のWTO違反を共同声明・協定で容認しているに等しい。
共同声明の第4項で「日米両国は、信頼関係に基づき、日米貿易協定及び日米デジタル貿易協 定を誠実に履行する。日米両国は、これらの協定が誠実に履行されている間、両協定及び本共同声明の精神に反する行動を取らない」とし、協定概要の“工業品・米国側”で※通商拡大法232条の扱いは、「両国は、両協定の誠実な履行がなされている間、両協定及び本共同声明の精神に反する行動を取らない」旨を首脳共同声明で確認。数量制限、輸出自主規制等の措置を課すことはない旨は閣僚間で確認」としている。
この文言自体が何も担保していないに等しいことを協定概要の分析でも言及したが、同時に日本を除く多くの国が上述の米国政府の行動が既にWTO違反であるとして提訴しているものであることを忘れてはならない。

2.日米貿易協定・日米デジタル貿易協定について
(1)日米貿易協定の概要について:
 ○総じて日本語として非常に低水準の意味不明な箇所も目立つものであり、協定の内容・合意署名は国会審議に値するような代物とは言えない。
 ○緊急輸入制限発動基準数量(SG)とCPTPP6条による見直しのまやかし
最重要の牛豚肉・果実などの緊急輸入制限発動基準数量とCPTPP第6条の見直し条項(見直さなければTPP+日米合計数量となり、実質的に緊急措置が発動できなくなる)は公表文書P2「牛肉」の項の5行目以降に記載されている。
「TPP11協定が修正されていれば、米国と TPP11締約国からの輸入を合計して、TPP全体の発動基準数量を適用する方式に移行する方向で協議することに日米間で合意」とある。
問題は「移行する」と確定事項として担保されておらず、日米で「移行する方向で協議する」だけであり、米国が“TPP11と米国の数量を合計して、12ヶ国に対してTPP全体の発動基準数量とする”ことを“認めるかどうかも担保されていない”ことで、日本の農家にとっては何も獲得していないに等しいのである。
牛・豚肉以外にもホエイ・オレンジなどのSGも同様だ。
 ○自動車・部品の関税撤廃は何も約束していないに等しい:
  公表文書P4の3工業品<米国側>自動車・自動車部品の項で“「米国譲許表に“更なる交渉による関税撤廃」と明記(自動車・自動車部品に係る具体的な関税撤廃期間や原産地規則は本協定で規定せず。)“とある。
“いつ撤廃するか”は合意されていないとしか読めず、空手形としか言いようがない。
 ○自動車の追加関税や数量規制についても同様に何も約束されていないに等しい。
  また、上記と同じパラグラフで“※通商拡大法232条の扱いについては、「両国は、両協定の誠実な履行がなされている間、両協定及び本共同声明の精神に反する行動を取らない」旨を日米首脳共同声明で確認。数量制限、輸出自主規制等の措置を課すことは ない旨は閣僚間で確認”とされている。
“精神に反する行動は取らない”とか、“閣僚間で確認”という表現は、正式あるいは厳密な担保とは言えず、いつ蒸し返されても文句は言えないことと同義でしかない。

(2)日米デジタル貿易協定の概要について
○デジタル課税は世界的に喫緊の課題、最初からハードルを下げていいのか?
協定概要の最初の項目では「締約国間における電子的な送信に対して関税を賦課してはならない」とある。現在EU中心に世界的にデジタル課税が喫緊の課題となっている中で、米国は強く反対をしている。関税の賦課と法人課税などでは異なるが、最初にハードルを下げてしまうことが適切か疑問の残るところだ。
 ○“データローカリゼ-ション”強要禁止についての懸念
「自国の領域で事業を行うための条件として、対象者に対し、自国内でのコンピュータ関連設備の利用・設置を要求してはならない。金融サービスについては、金融当局による規制や監督のためのアクセスが認められる限りにおいて同様」としている。
文言が分かり難いが、もし金融について、“当局によるアクセスを認められる限り、設置場所は自由”という意味なら、金融危機の際の危機管理の点での有効性が懸念される。TPPでも金融分野だけは上記のような規定の例外とされていた筈だ。
 
日米貿易協定、日米デジタル貿易協定の概要
※両国の国内手続完了通知後、30日(または別途合意する日)で発効。終了は通告後4
ヶ月)
 ※以下の表は、公表文書をまとめたものである。原文へのリンクは⇒http://www.cas.go.jp/jp/tpp/ffr/pdf/190925_TPP_gaiyou.pdf
 (日米貿易協定の概要:農林水産品:日本から)
概要
・日本側の関税はおおむねTPPの範囲に抑制
・コメは除外
・“TPPワイド”の関税割り当てが設定されている脱粉・バター等3品目について米国枠を設定しない
・幅広い林産品・水産品について譲許せず
・それ以外の品目は発効時からCPTPP11ヶ国と同じ税率を適用

コメ
・米粒のほか調製品も含めコメ関係は全て除外
牛肉
・関税削減はTPPと同様
・SGは20年度24万2千トン、以降TPPと同様に基準数量増加、最終33年度に29万3千トン
・TPP11協定が修正されていれば、米国と TPP11締約国からの輸入を合計して、TPP全体の発動基準数量を適用する方式に移行する方向で協議することに日米間で合意
豚肉・小麦・乳製品
・関税削減・撤廃はTPPと同内容
・脱脂粉乳・バターは米国枠を設けず。
・脱粉には、WTO枠内に、35%以上の高蛋白質含有率のものの枠を5千トン(生乳換算)設定する予定
砂糖類
・粗糖・精製糖、加糖調製品や砂糖菓子(チョコレート 菓子等)は譲許せず
酒類
・ワインについての関税撤廃は、TPPと同内容。他の酒類(清酒、焼酎等)は譲許せず
・米国は、米国でのワイン・蒸留酒の容量規制の改正に向けた手続、日本産酒類の10表示(国税庁長官が指定した地理的表示)の保護に向けた検討・手続、酒類のラベル承認の手続簡素化、米国市場での日本の焼酎取扱いの見直しを約束

※農産品について、米国との将来の再協議規定あり

(日米貿易協定の概要:農林水産品:米国への輸出)
日本産牛肉
・現行の日本枠200tと複数国枠を合体、65,005トンの活用可能に
その他
・米国向けに農産品42品目の関税撤廃・削減(醤油、ながいも、柿、メロン、切り花、盆栽等)

(日米貿易協定の概要:工業品・米国側)
自動車・部品
・米国側譲許表に「更なる交渉による関税撤廃」 と明記(自動車・自動車部品に係る具体的な関税撤廃期間や原産地規則は 本協定で規定せず。)
※通商拡大法232条の扱いは、「両国は、両協定の誠実な履行がな されている間、両協定及び本共同声明の精神に反する行動を取らない」旨 を首脳共同声明で確認。数量制限、輸出自主規制等の措置を課すことはない旨は閣僚間で確認
その他
・産業機械、 化学品、鉄鋼製品等の関税を撤廃、削減

(日米貿易協定の概要:工業品・日本側)
日本側関税
工業品の関税は譲許せず

(日米デジタル貿易協定概要)
・締約国間における電子的な送信に対して関税を賦課して はならない
・一方の締約国は、他方の締約国のデジタル製品に対し、他の同種の製品よりも不利な待遇を与えてはならない
・電子署名が電子的形式によるものであることのみを理由に法的有効性を否定してはならない
・対象者の事業のために行われる場合には、公共政策の 正当な目的のための措置を
除き、情報の電子的手段による国境を越える移転を禁止又は制限してはならない
・自国の領域で事業を行うための条件として、対象者に対 し、自国内でのコンピュータ関連設備の利用・設置を要求してはならない。金融サービスについては、金融当局による規制や監督のためのアクセスが認められる限りにおいて同様。
・オンライン上で、消費者に損害を及ぼし、又はそのおそれのある詐欺的な商業活動を禁止するため、消費者保護に関する法令を制定し、又 は維持する
・個人情報の保護について定める法的枠組みを採用し、又は維持 する
・自国における輸入・販売等の条件として、ソフトウェアの ソースコードやアルゴリズムの移転等を要求してはならない。規制機関 や司法当局の措置は、例外も
・SNS等の双方向コンピュータサービスについて、情報流通等に関連する 損害の責任を決定するにあたり、提供者等を情報の発信主体として取り扱う措置を採用、維持してはならないこと等を規定する
・暗号を使用する情報通信技術産品の販売や輸入の条件として、製造者に対し暗号法に関する情報の移転等を要求してはならない
・その他、一般的例外、安全保障のための例外を規定。信用秩序の維持のため の措置等については本協定を適用しない
・双方の国内手続完了通知後、30日(又は別途合意する日)で効力を生ずる。通告後4か月で協定の効力は終了する

(26~27日付日経・農業新聞報道から補足:日米協定)
米国産牛肉
・段階的に関税9%迄削減
米国産豚肉
・低価格品は従量税を482円/kgから最終的に50円まで削減、高価格品の従価税は最終的に撤廃
日本の工業品
・燃料電池・現行2.7%⇒即時撤廃
・工具・現行2.9~5.7%、楽器・現行2.6~5.4%。エアコン部品・現行1.4%、メガネ・サングラス・現行2~2.5%⇒一部を即時撤
 廃
・3Dプリンター・現行3.5%、マシニングセンター・現行4.2%⇒2年目に撤廃
米国産工業品
・化学品・皮革製品など日本が関税を課しているものはそのまま
米国産ワイン
・15%あるいは125円/リッタを7年目に撤廃
米国オレンジ等
・オレンジ・リンゴ・トマトピューレ/ペースト/ジュース段階的に削減
・オレンジのSG発動基準数量はTPPの95%の19年度35,150トン
・トマトケチャップ、葡萄、オレンジ・リンゴ果汁は除外
米国産小麦
・TPPと同じ低マークアップのSBS最終15万トンの輸入枠
コメ ・ミニマムアクセス枠内の中粒腫・加工用の限定枠も約束せず

 (26~27日付日経・農業新聞報道から補足:TPPとの関連)
日本車・部品
・2.5%の完成車25年目に撤廃
・部品の約87%相当を即時撤廃



参考:2018年12月21日USTR対日交渉目的22項目の抄訳
USTR英文へのリンク⇒ 
https://ustr.gov/sites/default/files/2018.12.21_Summary_of_U.S.Japan_Negotiating_Objectives.pdf
  ※注:TPPとの比較が可能な分野については若干のコメントを記載した。

番号 項目 ポイントとなる主張の抜粋 (※は筆者の注)
1 物品貿易(※多くはTPP越え)
・対日貿易赤字削減を最大の目的に  
・米国産品の包括的な関税撤廃と市場確保と非関税措置抑
制、その一方で繊維製品等の米国の重要関心品目への配
慮を求める  
・医薬品・医療機器・情報通信等の輸出促進のための規制の整合性  
・米国産自動車の公正な貿易のため非関税障壁に取り組み、
米国内での製造と雇用を拡充する
・米国産農産物の関税撤廃・削減、一方での米国の重要関心農産品について関税削減における適正な猶予期間設定
・農産品に対する不公正な非関税措置撤廃
・国家貿易・国有企業・補助金・価格の仕組みの透明性を求める
・バイオテクノロジー農産品への対応・協力(※TPP並みと
推測)
・関税割り当てに対する制限 (※注:乳製品市場参入を念頭に?)
2 衛生植物検疫措置SPS(※TPP並みと推定)
・WTO協定・科学的根拠に基づくSPS措置
・国際的な義務に整合する食の安全保護
・米国産品輸出への不当な障壁を排除する仕組み確立、等々
3 税関・貿易円滑化・原産地規則(※一部はTPP越え)
・輸入された産品の検査後の速やかな出荷
・税関業務の電子化を始めとする効率化
・特に米国産品の輸出につながる原産地規則、特に繊維製品(※注:新NAFTAのようにバイアメリカンを追求か?)
4 貿易の技術的障害TBT(※TPP並み)
・貿易上の懸念、規制協力、適正な規制の実施のための委員会設置
5 規制に関する優れた慣行
規制の策定における開かれた公聴会(※注:TPP以降一貫した方向として産業界の声を反映?)
6 透明性・(貿易に関する法・諸規則・制度の)公表・行政措置
・貿易・投資に影響する法・規制・適用等の速やかな公表
・新たな措置の決定に際しての適切な公聴会
・規制などの見直しの仕組みの確立
(※米の一貫した拘り)
7 通信・金融を含むサービス貿易(※フィンテック、データ経済睨みTPP越えを) (※注:ほぼTPPと同様なスタンスか?)
・米国の金融サービス業者への機会の拡大、日本国内の拠
点設置義務排除
・金融サービスにおけるデータ流通・サーバー設置のローカリゼーションの回避(※注:TPPでは金融についてだけは自由化実現できず)
・海事分野を含む米国に対する非適合措置(例外措置)についての柔軟性の維持(※注:=保護的な例外を要求)
・通信分野での日本国な諸施設などへの適正なアクセス
8 電子商取引・越境データ流通 ・データの越境流通の自由確保、サーバーのローカリゼーション禁止(※注:TPPでは金融以外では確保)
・電子商取引への課税回避
(※注:ほぼTPPと同様か?)
9 投資 (※注:ほぼTPPと同様か?但しISDS条項含まず)
10 知的財産権 (※注:ほぼTPPと同様か?)
・日本独自の地理的表示の保護による米国産品の市場アク
セスを不適切に侵すことの禁止(※地理的表示に敵対的)
11 医薬品・医療機器に関する公正な手続き
・米国製品の市場アクセスを確保するための基準を求める
(※注:TPPにおける日米交換文書同様、薬価等を含む
公的健保などへの固執か??)
12 国有・国営企業
※注:TPPとほぼ同じ、但しTPPにおいて通知した留保措置(例外対象の企業を認める)への言及が無い
13 競争政策
14 労働 ・ILO批准、強制労働・権利無視・低労働条件禁止等に言及
(※注:この分野に関連して、米国務省はこれまでも日本における外国人労働者に対する強制労働・権利無視・低労働条件を継続的に問題視)
15 環境
16 腐敗防止
17 貿易救済措置(※米国第1主義追及)
・米国による反ダンピング、相殺措置、緊急輸入制限実施の確保
18 政府調達(※米国第1主義追及)
・市場開放を求める一方、広範な例外措置を求めると共に、一方でTPP同様、州政府以下のレベルへの市場開放について全く言及していない
・バイアメリカンを要求
・中小企業・少数民族・女性など劣後する事業体からの調達を優遇
19 中小企業
20 紛争解決
・開かれた公聴会を要求
・ISDSには言及無し
21 一般規定
・日本が非市場国(中国など)と自由貿易協定交渉に入る場合の透明性確保・適切な対応をとるための仕組みを要求
(※注:新NAFTAで獲得した内容を意識か?その上で中国、
中国参加のRCEPへの牽制か?)
22 為替
日本が、効果的に国際収支を調整し(歪め)たり、あるいは不公平な競争上の有利性を得るために為替操作をしないよう確保する(原文全ての逐語訳)

※参考:9月27日時点日米政府公表のその他の日米協定関連の資料へのリンク
○農水省及び経産省の公表文書へのリンク
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/tag/attach/pdf/indexー4.pdf
https://www.meti.go.jp/press/2019/09/20190926006/20190926006ー1.pdf
https://www.meti.go.jp/press/2019/09/20190926006/20190926006ー2.pdf
○米・USTR公表文書へのリンク
https://ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/fact-sheets/2019/september/fact-sheet-us-japan-trade-agreement

https://ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/fact-sheets/2019/september/fact-sheet-agriculture-related

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