TPPから見える風景 -日米貿易交渉に見る私物化・ご都合主義・戦略欠如-

TPPに反対する人々の運動
近藤康男

通商交渉に、放置主義ではなく法治主義を
5月27日の日米首脳会談後、俄かに“8月密約?説”が浮かび上がり、野党が声高に追及を始めようとした。しかし、年金所管官庁でない金融庁が5月22日に公表した「高齢化社会における資産形成・管理」指針案が物議を醸すとどうも焦点はそちらに移り始めたようだ。そして衆参同日選の風?もハッキリせず、野党の矛先も鈍りかねない様相になってきた。“8月密約?説”だけでは尻すぼみになることは見えており、もっと本質的な追及が必要だろう。

国民民主党が通商交渉における情報開示を求める法案を検討しているという。条約について憲法との比較優位についていくつかの条項を根拠に諸説ある一方、国内法に対しては批准・関連法整備により制約を課すものとなっている。また批准にあたって衆院優位が認められている。

それだけの重みを考えれば、情報開示に留まらず、また出口だけに留まることなく、EUや米国のように、交渉開始の権限付与や交渉の目的を含め、入り口から出口まで、一貫した包括的な手続き全てを法で定め、法に基づいて通商交渉を進めることが求められて然るべきだろう。では、安倍政権の振る舞いはどうか?

政治の全てを私物化、似た者同士の安倍・トランプ氏
ご都合主義で“解散の大権(憲法7条曲解の大いなる勘違い)”を振りかざして野党に揺さぶりを掛ける安倍首相は、これまでも国民の権利である選挙を自分の政権維持のために私物化してきた。そしてこの春目立ったのは、まず外交をトランプ氏にすり寄るための社交に落とし込めるという私物化だ。全てを政権維持に利用するというのはどの国の為政者もやることだが、トランプというWTO違反何モノぞとばかりに掟破りに邁進する異形の大統領に、ここまで接待する国はドイツ・フランスを見るまでもなく、唯一日本だけだ。

そして今度は、常に“完全に一致”する両首脳は、国民の暮らし、地域、主権に大きな影響を与える通商協定も、選挙優先の私物化だ。

2人とも思い付きで政策を打ち出し、声高な掛け声で“やってる感”を振りまき、結局株価以外に目立った成果は何も無い。“外交の安倍”も彼方此方飛び回っているだけで、政権の存在意義を掛けた拉致問題や北方領土を始め、冷静に振り返ると外交での成果らしい成果はゼロとしか言いようがないだろう。国内問題でも社会保障・税・財政など長期政権だからこそ取り組んで然るべき課題は放置されたままだ。

政府の交渉目的は何なのか?“TPP限度”と“TPP越え”の非対称性
昨年9月の日米共同声明は、真面目に読めば交渉範囲・分野は青天井(第4項)、その後12月に公表された、TPP越えを求める米国の「対日交渉目的」22項目がこの“青天井”を踏まえたものであることも明白だ。

ところが、強く出られると妥結を求めてしがみ付く習性のある政府は、唯一「農林水産品の市場アクセスは過去の経済連携協定での譲許内容が最大限であることを(米国も)尊重する」(第5項抜粋)ということを金科玉条のように繰り返しているだけだ。

米国はしがみ付くことなく、TPP越えの要求を繰り出している。最近の事務レベル協議では、同じ第5項で(日本も尊重するとした米国の)「自動車の産業の製造と雇用の増加」に関連して、TPP原協定で合意した関税撤廃など素知らぬ顔で、TPPでの“部品の定義”の範囲を大きく超える膨大な数の部品の関税継続を求めている。

“TPP限度”対“TPP越え”を出発点に交渉すれば、着地点がどうなるかは目に見えているだろう。
 選挙いのちのトランプ氏がそのために妥協することはあるかもしれない。しかし再選の目途が見えればいつでも“TPP越え”と22項目を求める交渉はいつでも再開されるだろう。

“TPP限度”で繰り返される譲歩の連鎖、米国のTPP復帰に必然性なし
 戦略のないまま曖昧な共同声明だけを金科玉条とし、包括的な「交渉目的」もないままの交渉は、戦略なしに戦うに等しい。「TPP限度」を掲げることは、これまで日豪EPA⇒TPP⇒日EU・EPAという流れ同様に、譲歩の連鎖の拡大しかもたらさない。

トランプ氏がTPPを無視するのは、そこに利益があるからで、彼からすれば当然でしかない。そして密約の有無は、米国の立ち位置にはそれほど大きな意味を持たないだろう。
韓米FTA・NAFTA見直しから、米中・米EU、日米までの2国間交渉を獲得すれば、米国が締結済みの20ヶ国とのFTAを加え、今まで以上の貿易圏となる。TPPに復帰してもベトナム、マレ-シア、ブルネイ、NZが追加されるだけであり、それ程魅力は無い筈だ。米国の戦略にとって、成長のアジアに手を広げるために日本を必要とし、利害を共有する日本も米国を必要としていたTPPだが、トランプの仕掛けた貿易戦争ゆえに、米国にとってTPPの位置づけは大きく変質したことを日本政府は認識すべきだろう。

(JAcomの許可を得て転載)