【報告】2019年4月23日「全国共同行動」第12回院内集会

近藤担当分

(はじめに)
質問の範囲は、包括的な事項として7項目、22項目の「対日交渉目的」の中のTPPを上回ると思われる内容のうち7項目の合計14項目だが、時間の関係から後段の7項目は交渉が具体的に進む次回の機会にまわすこととした。
米国の法治主義と日本の人治主義(=放置主義)
 包括的な項目として挙げた質問内容のポイントとなる背景は、①米国・EUはともに交渉そのもの及び具体的交渉目的を議会、市民/国民の意見を聴取したうえで法律に基づいて議会の承認を得たうえで公表するという“法治主義”を体現している(=内容、正当性を法的に担保している)一方、日本は日米首脳共同声明、首相と担当大臣による国会答弁・記者会見以外に何も無い、という“人治主義”=“放置主義”でしかないこと、②政府・官僚の公的発言の全てが“日米共同声明に基づき、あるいは沿って”というもので、具体性が一切ない点にある。
情報開示の非対称性は民主主義に値しない
米国・EUと比べての国会と市民/国民に対する情報開示の非対称性は度を越えており、民主主義とは言い難い。
出発時点において相手は攻、日本は守という違いは負け戦につながること必至だ
 そして、法律に担保され議会に責任を持つ交渉・交渉目的に基づく交渉に対して、そうでない日本の交渉の立ち位置の基盤の脆弱性は最初からハンディを背負った防戦の戦いに向かうものでしかない、という危惧を明らかにすることを意図しての質問である。

以下、政府側回答に対する反論を、主として18年9月26日の日米共同声明、18年12月21日のUSTR「対日交渉目的」、4月16日の茂木大臣の“ぶら下がり”記者会見、4月25~26日の閣僚協議・首脳会談などを基に記したい。

1、交渉の目的・情報公開に関して
(1)米国の「対日交渉目的」と同じように、交渉目的・基本的な要求などを国会と国民にどのような形、どのような段階で公表するのか。また、交渉は関税交渉か自由貿易協定(FTA)交渉かを明らかにすること。
〇内閣官房:日米の互恵的な物品貿易協定を目指すこととしている。 
〇反論:米国は、日米共同声明は勿論、TPPも超える具体的な内容を多く含む22項目
の交渉目的を国民に公表し、同時に議会・法律を担保措置として交渉に臨んでいる。
その多くの内容=要求をハッキリと拒否しなければ交渉に臨む立ち位置としては
弱すぎる。これまでの政府答弁や日米間の会合の中で、日米共同声明に無い事項で
唯一、かつ多少の具体性のある発言である為替条項でさえ、「財務相間で協議する」
としただけで、その他には相変わらず「農産品の市場アクアセスはこれまでの譲許
が最大限」というものでしかない。
敢えて言えば、政府の口癖のTPP12への米国復帰も求めず、「農産品をTPP水
準まで譲歩する」ことと「為替の財務相間協議」だけが交渉目的と理解せざるを得
ない。
トランプ氏は互恵・相互的Reciprocalなる言葉を多用するが、米国の「交渉目的」
の内容は米国の一方的な要求が書き連ねてあるだけだ。

物品協定かFTAかということには回答が無かったが、日米共同声明でさえ既に、
ステップを踏めば、「4項」にあるように、「上記の協定議論の完了の後に、他の貿
易・投資の事項についても交渉を行う」としている。茂木氏はぶら下がり会見の5
ページ目で「協定を結ぶという表現にはなっていない」と苦しい発言をしているが、
交渉は単なるお喋りなのだろうか?
(2)国会・国民への情報開示について、どのような内容の情報開示を、誰に対して、どのようなタイミングで行うのか。また国会への報告・国会での審議・承認を行うのか、日米交渉において国会承認を必要としない場合は交渉範囲はどのようなものになるか。
 〇内閣官房:交渉中なので慎重に対応することとするが、可能な範囲で情報公開に努める。
 〇反論:国会・市民/国民に対する情報開示については、米国・EUとの著しい非対称性
は明白だ。
米国は勿論、EUも「対EU交渉目的」が公表された1週間後の19年1月18日
に4点の公的文書を公表して対米交渉の立ち位置を明示し、加盟国・欧州理事会
に諮ったうえで3月15日に承認するという民主的な対応と交渉分野・情報開示
を実施している。
茂木経済再生担当相は3月4日の参院予算委員会での国民・舟山康江氏の、日米
交渉での情報開示を求める質問に対して「日本も米国も、交渉途中の段階で同じ
ような形、レベルで国民に説明していきたい」と答弁している(3月5日付日本
農業新聞)。
しかしこれまでのところ、日本は新聞報道以外は国会・市民/国民をつんぼ桟敷
に置いているに等しい。

また、「国会承認を必要としない交渉範囲は?」との問いにも回答はなかった。
茂木担当相は4月16日の記者とのやり取りの4ページ目で「物品貿易とデジタ
ル貿易の議論をした、というのは交渉範囲か?」との問いに「スコーピング(範
囲特定)した結果というよりも、どういう順番で議論を進めるかについて議論を
した」と答えている。交渉の範囲も曖昧にしたままとは呆れるばかりだ。

2、日米共同声明(18年9月26日)との関連に関して
(1)「市場アクセスの譲許内容」の範囲は「農林水産品の関税」だけか、それとも「農林水
産品に関わる非関税障壁」も含むのか。
 〇内閣官房:18年9月26日の共同声明に基づいて物品貿易について交渉する。また19
年4月15と16日の茂木・ライトハイザー氏の間で議論された範囲である。
 〇反論:上記「1」の質問の(2)への回答への反論で記したように、4月の閣僚協議では
交渉範囲は決めないまま議論の順番を確認しただけではないのか。少なくとも政
府答弁でいう「(日米両閣僚間で)議論された範囲(交渉範囲)」は何も言ってい
ないに等しい。
具体的な言及が一切ないし、敢えて言えば、4月16日のUSTR声明は米国の膨
大な対日赤字を強調しており、物品貿易でさえ長期的視点では“なんでも在り”
と思ったほうがよさそうだ。
(2)「非農林水産品」については、「過去の経済連携で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限」ということ、また分野の範囲とも関係なくフリ-ハンドで交渉に応じるのか。
 〇内閣官房:(明確な回答はなかったように聞こえた。“共同声明に沿って”ということと
推察)
 〇反論:これも米国が自らの立ち位置を詳細に公表しているのと対照的に全く明らかにさ
れていないに等しい。日本政府は国会議論・市民/国民を何処に導こうとしている
のか?
これも敢えて言えば交渉範囲は制限なし、共同声明4項では物品貿易の次の段階に
は“他の貿易・投資の事項についても交渉を行うこととする”、とある。
そして米国はTPP30章とほぼ重なる22項目を交渉することを公表している。
(3)共同声明の「3項」の「日米両国は、所要の国内調整を経たのちに、日米物品貿易協定について、また他の重要な分野(サ-ビスを含む)で……、交渉を開始する」とあるが、「所要の国内調整」とは何か。また、「他の重要な分野」や「サ-ビス」にはどのような分野を含むのか。具体的な事項を列挙されたい。
 〇内閣官房:“所要の国内調整”とは、米国におけるTPA法を指す。
 〇反論:つまり日本政府は“所要の国内調整”はしないまま“放置主義”で勝手に分野無
制限で交渉する、ということと理解せざるを得ない。
(4)共同声明の「4項」の「上記の協定の議論の完了の後に、他の……事項についても交渉を行うこととする」とあるが、「上記の協定」とその後の事項の交渉についてはそれぞれ別個に合意署名をするのか、それとも一括して合意署名をするのか。
 〇内閣官房:物品貿易合意と同じタイミングのものだけ(デジタル貿易を指すと推察)で
      ある。(再質問「その後の交渉に含まれるものは別個なのか?」に対して)今
後のことについて予断を持つべきとしない。
 〇反論:4月16日の茂木担当相の記者とのやり取りとは矛盾するように聞こえた。
茂木氏は、自身の「パッケージ合意は全体が決まって合意になる。ここだけ決ま
ったのでこれが合意というやり方は交渉ではとらない」との発言に対する、記者
の「パッケージは自動車と農業ととらえていいですか」に対して「いいえ、全体
でのパッケージです」としている。
“全体のパーケージ”であれば物品貿易とは限らないし、そもそも米国の要求は
物品貿易の範囲を超えている。日米共同声明も「4項」で、「上記の協定の議論の
完了後に、他の貿易・投資の事項についても交渉を行うこととする」としている。
また、政府が米国の復帰に拘っているTPPも、“一括で初めて合意する”ことと
されてきたが、そのようなスタンスも放棄するのか?
トランプ氏の選挙に花を添えるために原則を放棄していると思われてもしかた
ない、官僚の域を超えた発言だ。。
(5)米国が日米共同声明の内容を超える要求を出してきた場合は、EUのように交渉離脱を表明する用意はあるのか。
 〇内閣官房:(再質問に対して)仮定の問題には答えられない。
 〇反論:“仮定の問題”ではなく、交渉における“条件・範囲の設定”と“立ち位置”の
問題だ。“仮定”という表現は日本の官僚の常套文句だが、思考停止と回答をしな
いための方便でしかない。
米国は既に昨年12月の「対日交渉目的」22項目で、共同声明は勿論TPPを超え
る要求を正式なものとして議会にも送致している。
またEUは既に19年1月18日の公表文書で、交渉範囲を米EUの首脳会談の範
囲に限定すること、共同声明を尊重しない場合は交渉離脱をうたっている。

閣僚級協議や首脳会談で「米国からTPP以上という話は出なかった」というのは当たり前で、米国は「関税撤廃を始め、個別項目で既にTPP以上を求めている」からに過ぎない。
「対日交渉目的」に負けない明確で具体的なメッセージを出さないままの交渉は空念仏でしかない。(念仏に対して失礼か…)

なお、4月23日の院内集会で政府からの回答をいったん留保した質問は以下の通り。
(1) 工業製品特に自動車関連の原産地規則について、TPPにおける原産地規則以上の原産地比率を許容することはないか。
 〇新NAFTAではTPP以上の原産地比率で合意している。
〇「対日交渉目的」では、既にNAFTA再交渉での意図を反映させ、原産地規則は、“純粋
に”それぞれの国内で製造された製品に利益をもたらすことを確保するものにする、あ
るいは、特に米国に対してインセンティブを与えることを確保する、ことなどを求めて
いる。
 〇譲歩することは、米国のTPP復帰を最善とすることと相反することとなる。
(2)「TBTの項目の中で、“規制に関する優れた慣行”を日米以外の国に対して(求めるべく)調整をする委員会を設ける」としているが、日米以外の第3国に2国間協定交渉の適用を拡大する目的・根拠は何か?
〇多国間協定であるTPP原協定(規制の整合性)でも米国流の規制を拡大する文脈が色濃かったが、「対日交渉目的」のTBTの中で、規制について、“規制に関する優れた慣行”を日米以外の国に対して(求めるべく)調整をする委員会を設ける、とされている。2国間の交渉で第3国をターゲットにすることであり、第3国に対してfair公正、reciprocal相互的とは言い難い。
(3)投資について、米国の要求にはISDS条項は含まれないが、日本も投資紛争解決の手段としてISDSを求めないのか。
(4)知的財産権について、TPP及び日EU・EPAにおけるGI保護の規定を損ねる可能性はないのか。
〇米国は「対日交渉目的では、米国の産品の市場アクセスに際して、GI保護に関わる不適
 切な仕組みにより妨害をしないよう求め、強くけん制している。
 〇日本のGI農水産品保護を一歩も譲ることがあってはならない。
(5)国有企業・政府支配下の企業について、日本国内の国有企業に対する事業持続のための支援を確保する考えはあるのか。また、米国による自国の国有企業に対する支援についてはどのように考えるか。さらに、TPP原協定と同様、米国の国有企業に対する非適合措置(例外措置)を認めるのか。
〇「対日交渉目的」では、米国内における公共サービスを提供する国有企業への支援を維
持出来るよう求めている。
〇TPP原協定で、米国はTPPの主要な規定を適用しない留保企業を5件(とカウントさ
れると理解した)付属書Ⅳに挙げている一方で、日本は全く留保企業を挙げていない(実
質的には)唯一の交渉参加国だった。
(6)政府調達について、米国の求めるBuy Americanと同様にBuy Japaneseを対抗的に求める考えはあるのか。また、米国は州政府以下の公共調達については、TPP原協定やWTOの政府調達協定同様、除外を求めることも想定されるが、日本側も同様の除外を求める考えはあるか。
〇「対日交渉目的」では、連邦政府の支援の関わる公共調達についてBuy Americanを調
達の条件とすることを求めている。
 〇日本はWTOの政府調達協定・TPPでは一部の例外規定はあるものの政令都市レベル・主
要な独立行政法人まで原則市場開放をし、日EU・EPAでは中核都市更には県レベルの独
法・公立大学や病院まで対象とするなど米国の立ち位置との間に大きな非対称性がある。
(7)一般規定の「中国など非市場国との経済連携交渉についての米国に対する透明性を保証し適切な行動をとる仕組み」の要求と為替条項に対し、日本政府は明確な拒否の姿勢を貫くのか。
〇いずれもTPPにも日米共同声明にも含まれないが、新NAFTAではいずれも米国の要求通
りになった。
〇「対日交渉目的」の21番目の一般規定4項目中の4番目で求めている“中国など非市
場国との経済連携交渉についての米国に対する透明性を保証し適切な行動をとる仕組
み“の要求は、ほとんど日本に対する「交渉内容の説明義務要求と牽制」とも言える
〇22番目の為替条項もTPPにも日米共同声明にも無いが、ムニューシン財務長官は、繰
り返し「拘束力のある貿易協定に含めるべきだ」と求めている。