≪TPPに反対する人々の運動≫第3回連続講座 日中韓FTAと生活暮らし 金 哲洙(新聞記者)

 環太平洋連携協定(TPP)は10月5日、米国アトランタで基本合意しました。米国が操り、日本が副操縦士として同乗した新自由主義の船がついに出港しようとしています。そこで今日は、東アジア三カ国、日中韓FTAの情報を共有し、今後の対抗策構築につなげたいと思っています。政府はTPPを軸とする成長戦略で国民は幸せになるといいます。しかしTPPは投資家最優先で国家主権も国民生活も守れない、更なる資源争奪、気候異変を引き起こす危険性があるにもかかわらず、乗船者の国民の多くは、一部権力者に身を任せている状態です。このままでは、日本が本当に沈んでしまう。そのため、その対抗軸の1つに東アジア共同体があるではないかと私は考えています。日中韓FTAはその前段ではないかと思うのです。

1、米韓FTAからみるTPP
 バラク・オバマ米大統領は、TPPを「米国の価値を反映した合意」と評価しました。さらに、これまで控えてきた中国包囲網を自ら認め、公然と「中国のような国に世界経済のルールを書かせることはできない」との声明を出したのです。日本の大手メディアもこれに付随し、積極的に支持する論調で報道しました。しかし、TPPが持つ本当に意味を分かっているだろうかという疑問があります。
 ミニTPPと言われる米韓FTA事例からTPPを説明します。韓国政府は、環境政策として「低炭素車協力金制度」(CO2排出量が少ない自動車を購入すると最大約30万円の補助金を交付し、排出量が多い自動車を購入すると最大約30万円の負担金を課するもの)の導入を検討し、2012年2月に「13年7月の導入」を決定しました。しかし、同年11月急きょ「15年1月1日発効」と変更しました。そして発効間近の12014年9月になると「2020年に施行する」と再変更した。その背景には、米国の自動車業界などが米韓FTAを武器に韓国政府に圧力かけたということがあります。米韓FTAが韓国の国家主権を侵害した代表的な事です。このほか2015年5月にはアラブ首長国も韓国を提訴するという動きもありました。
 韓国はOECDの中でだんとつに自殺率高いという現実もあります。セオウル号沈没事件は韓国社会の実態を示しています。競争社会が行き着く中で起こった事件です。TPPは日本にそうした状況を招き寄せるでしょう。、また、TPPにも、国家主権を侵害する恐れのある条項があります。規制改革において外国投資家の意見を求め、日本の規制改革会議に付託することを明記しているからです。

2、日中韓FTAの可能性
 冷戦後、中国の台頭に伴い、世界の経済秩序が大きく変わりつつあります。GDPの購買力評価を比較してみるとBRICsの新興国7カ国が、米国等先進7カ国を上回りました。アセアン+3、アセアン+6とTPP参加国のGDPを比較しても、いずれTPPを上回っています。まさに、南北逆転現象が生じているのです。中国は世界2の大国であり、AIIB参加国も、アジア域外で欧州が多いという状況が出ています。経済連携を進めるにあたって、中国は「5通原則」を掲げています政策、道路、 貿易、貨幣(元)、民心(みんなが納得)の五つです。
 こうした状況が生まれているにもかかわらず冷戦思考で、米国べったりの政策を作るのは、極めて愚策だと思います。経済的、人的交流が多く、地理的にも近い日中韓のFTAこそ、経済成長のけん引力であり、平和アジアの鍵を握る。アジアは人口増えていきます。中国1人子政策をやめました。その一方で高齢化も進みます。以下、三カ国の状況を確認してみます。
 
1)人口密度
 人口密度がいずれも米国より高い。国土1ヘクタールに住む人数をみると、韓国が5.1人と最も高く、日本が3.4人、中国が1.4人です。いずれも米国の16倍、11倍、4.5倍となっています(表-1)。大量生産、大量消費、大量浪費を基本とする米国型社会発展モデルは、資源が乏しいアジアには適さない。アジアが生き残る道は、「足るを知る」農耕文化の再構築にあると考えます。

 2)貿易状況
 日韓と中国の貿易額は、米国に比べ2倍と高い。一方、中国は、米国との貿易シェアが高い。貿易の側面からすると、日韓両国が中国と先にFTAを結ぶはずです。
 表-2日中韓貿易(単位:百万㌦、日韓2014年、中国2013年)

 3)人の交流。
 3カ国の間では、年間延べ5000万人以上の人が行来しています。日本を訪れる中韓客は、訪問客の39%を占めています。中国に訪れる訪問客の36%が日韓客です。韓国訪問者をみると、日本客が減り、中国から増えている。2014年は、中国客単独で43%だ(表-3)。この交流層は、うまく利用すると日中韓FTAの重要な草の根の力になるはずです。
 留学生の状況でも類似した現象が生じています。2014年統計をみると、日本への外国留学生は、前年比9.5%増の18万4155人で、トップは中国。中国への外国留学生は、前年比5.8%増の37万7054人で、トップは韓国。韓国への外国留学生は、前年比1.2%減の8万4891人で、トップは中国。

 4)就業状況
 韓国の就業者人口は2014年、2560万人と05年比12%増えました。産業別では、卸売業、飲食業の就業者が約590万人と最も多く、次に製造業(430万人)。その中で、目立つのが保険業で、毎年平均16.5%伸びている。2014年には、130万人と10年前の2.6倍となりました。
 中国の就業人口は2014年、7億7253万人と05年に比べ3%増えました。半面、都市の失業者は、952万人と13%増えました。就業者の増加率に比べ、失業率が高い。
日本の雇用形態別就業者数をみると2014年、前年比0.7%増の5594万人、そのうち正規従業員は、0.5%減の3287万人、非正規は2.9%増の1961万人。
 経済成長推進論者の多くは、経済成長で雇用が増えるという。しかし、増えるのは非正規労働者で、韓国グローバル政治経済研究所の呉建昊研究室長は「国際化の進展に伴って企業利益を優先し、労働者の権利を侵害する不当な事件が多発している」と、新自由主義を批判しています。

5)、三カ国の長期ビジョン
・)韓国
  韓国国立外交院は昨年6月、「2040統一韓国ビジョン報告書―グローバルリーダ統一韓国」を発表しました。その中には、2030年まで南北の経済統一を実現し、40年~50年には統一韓国を目指す内容が盛り込めれています。
・)中国
 中国では「一帯一路」(ワンベルト・ワンロード)国家戦略を打ち出しました。中国と欧州、アフリカを大陸と海洋で結ぶ経済連携で、多元的、自主、平等、持続可能な発展を目指すということです。65か国44億人 21兆ドルという世界です。

  ・)日本
日本は、「一億総活躍構想」を打ち出し、2020年のGDP600兆円、出生率1.8人 介護離脱ゼを目指します。その一環として、TPPを推進するという。
こららののビジョンから覗えるのは、日中韓FTAによって、中国は、経済面ではTPPに対抗する欧州、アフリカを含む大陸型メガFTAを形成し、国際的には貧困削減に貢献する。安全保障の面では、南北の平和統一を通じて朝鮮半島の安定とともにアジア平和を実現するということです。

3、日中韓FTAの現状
 日中韓FTAは今年9月、第8回目の交渉を迎えました。一方、日中韓協力事務局(TCS)には今年9月から、中国がホスト国となり、日中韓FTAだけではなく、東アジア包括的経済連携(RCEP)などにも意欲を示しているようす。
しかし、来年発効を目指す中韓FTAやTPPが、日中韓FTAに影を落としています。一部の識者からは、日中韓FTAが漂流するのではないかとの見方もあります。11月、韓国で開く日中韓サミットが新たらしい展開を生むかもしれません。

4.TPPに対して
 最後に、TPPに対して中国、韓国はどう動こうとしているのかを簡単に報告します。まず韓国ですが、TPP参加12カ国のうち韓国はメキシコと日本を除く10か国とすでにFTAを結んでいます。韓国がいま最も気にしているのは自動車の原産地問題です。韓国の自動車輸出が不利になるかもしれないという懸念です。韓国は一貫してコメだけは除外と主張してきています。 しかし日本が輸入特別枠を設定しました。この問題をどう扱うかが課題ですが、11月初旬に表明にTPPについて態度を表明する予定です。
 中国はTPP参加国のうち五カ国とFTAを結んでいます。それらの各国とも経済的には中国への依存度は高い。中国あhTPPが発効した場合、短期には影響は少ないが、長期的には影響が出るだろうと見ています。投資国が中国から移転する懸念があるからです。中国政府は「あくまでWTO基準」でという方針です。TPPについては、お互いに邪魔しないで行こうということをいっています。
 中国では、いまネットでTPPを批判する論議が盛り上がっています。「観察者ネット」というのですが、発言しているのは大学の教授やもんもんかといった識者です。そこでの議論のいくつかを紹介しますと、
 ・台湾大学教授:TPPはグローバル企業の利益を代表するものであり、米議会がTPPを承認すると同時にWTOは終わる。TPPは閉鎖的である。
 ・人民大学の先生:NAFTAの例を挙げて「TPPは途上国にとっては毒薬」である。NAFTAでは貿易は増えたが、格差が拡大しただけ。
 ・研究院 TPPの核心は「国の主権を引き取ってしまう」こと。国家主権、司法権も制限 する。
 こんな論議が盛んにたたかわされ、政府も黙って見ています。

終わりに
 TPPには冷戦思考はいまだに続いているという側面があります。そこに市場万能主義が絡まって、社会とくらしを安定させる真ん中のクッションが崩壊している。そうした経済思想に対して、私は協同組合の原点回帰 村の再発見を主張したいと思います。キーワードを並べますと、村の小さな政治、小さな経済、小さい福祉といったことです。経済成長こそが発展というのは天動説であり、誤りです。 
 ・草木ことごとくみな仏になる 自然共生の思想(日中韓の共通文化)
 ・限られた資源を分かち合う。
 ・細く長く「細水長流」