NAFTAの国メキシコにTPPを探る  「TPPに反対する人々の運動」連続講座 第5回報告

 「TPPに反対する人々の運動」は1月20日に、連続講座「すでにはじまっているTPP!その実態を撃つ」の第5回目(最終回)を開き、「NAFTAの国メキシコにTPPを探る」をテ-マに報告・討論を行った。「人々の運動」が2013年5月に開催した国際シンポジウムで、メキシコの労働組合の活動者マリ・カルメンさんを招き、アメリカ・カナダ・メキシコによる北米自由貿易協定(NAFTA)締結から20年の現状・問題点を聞いた。TPP交渉が大詰めを迎える中で、改めて、TPPのモデルと言われるNAFTAが地域や人々にどう襲いかかっているかを探るため、2014年11月19~29日に、「人々の運動」の会員など7名がメキシコ各地を訪問、農民・労働者などと交流し、聞き取り調査を行った。その報告に約50名が参加し、活発な議論が展開された。

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 メキシコの大学で学び、同国でスラム支援の経験もある、日本国際ボランティアセンター(JVC)の加藤真希さんと、「人々の運動」代表の天明伸浩さん(新潟・農民)が主に報告を行った。冒頭に訪問直後のメキシコでの大規模なデモの様子が報告され、「近年、人質や行方不明の事件が続発している。それに対する政府への抗議活動も圧力を受けている。明るい未来が約束された1994年のNAFTA締結後も拡がり続けている格差や社会不安を再確認する旅になった」(加藤さん)。

 また、「あまりにアメリカに近く、天国に遠い国」(天明さん)と言われるように、NAFTA締結後、メキシコはアメリカと手を切れない関係にある。特に顕著なのはアメリカへの出稼ぎだ。アメリカから安いトウモロコシが流入し、価格が下がって小農民は生産を維持できなくなり、米国への出稼ぎを余儀なくされている。ある村では300戸のうち、9割の家庭で出稼ぎに出ていた。2011年の米国の不法移民1110万人のうち6割はメキシコ人と言われ、出稼ぎ収入はNAFTA以前の4倍にものぼっている。

 そのため、食料自給率は確実に低下する一方、一部の大規模農業者は政府の支持政策もあり、生産を拡大している。また、流通・加工部門や畜産などでの米国企業(カーギル、ADMなど)が進出・支配が著しくなっている。

 そうした厳しい状況の中でも農民の自立に向けた運動があった。メキシコ中央部の高地にあるトウモロコシ生産地帯では、200種にのぼるトウモロコシの原種を農民組合が保存しており、農家に貸し出している。「トウモロコシを守ることはメキシコを守ること」をスローガンにする農民組合では、「トウモロコシを世界遺産に」と張り切っている。「遺伝子組み換えのトウモロコシは2500メートルの高地には入ってこない」とも言う。さらに、サボテンを飼料にしたり、チーズや肉の加工も自ら行っている。「自由化に対抗するには、身の丈にあった小農生産が大切なことは日本にも通じる」(天明さん)。

 一方、労働現場でも自由化の影響を受けている。NAFTA以前からメキシコには「マキラドーラ」と呼ばれる保税輸出加工区がある。当初の米国境地帯沿いから、その後は全国へ拡大し、2005年には輸出の44%を占めるようになっている。100%の外資受け入れも認められ、その9割近くが米国からの投資だ。

 そのマキラドーラ工業団地の視察も行われたが、密輸や不法移民を取り締まる厳重な軍や警察の検問などもあり、写真も撮れないほどだ。ここで働く労働者の話では、給料は週給で1200ペソ(1ペソは約8円)、そこから家賃や税金、社会保険を引かれると、手取りは半分にしかならない。一家に必要な支出は週950ペソで、共働きでどうにかやっていける状態だという。政府支給の住宅も粗末なもので、週2回は断水し、環境も劣悪。さらに、外国企業を誘致するために、労働組合も作らせず、活動家は殺害されているとのことだ。マキラドーラの労働者は「自由な奴隷状態」(現地労働者)と言える。

 訪問団はこうした現状を見ながら、「NAFTAが国民の貧困化、生活の質の悪化につながっていることは間違いないが、それは唯一の要因ではない」(加藤さん)と分析している。それは、もともとメキシコには国内産業は繊維くらいしか育っていなかったためであるが、NAFTA加盟は国内産業の育成の道を閉ざすことにつながってきており、TPPはそれをさらに加速するだろう。

 また、投資家が国家を訴えるISD条項もNAFTAの中に入っており、メキシコの国内法の改訂も余儀なくされてきた。まさに国家を牛耳る制度であることは明白になっている。
討論の中では、こうした現実から、「アメリカに支配された新植民地型帝国主義」(視察団の大野和興さん)の渦中にあるメキシコの厳しい実態は、日本とも共通することが多いことが明らかになった。視察参加者の近藤康男さんによれば、OECD(経済協力開発機構)34ヵ国の相対的貧困率ではメキシコはイスラエルに次ぎ2番目に悪い(日本は6番目)。大人一人世帯では、韓国とともに第1位という劣悪さだ。「NAFTA、韓米FTAの国の格差が日本にひたひたと押し寄せている」(近藤さん)現実を直視した運動が求められている。(TPPに反対する人々の運動 市村忠文)


※以下は視察団の行動の一部を映像化した「自由貿易に抗う人々─ダイジェスト版」で、講座冒頭に流した映像です。