交渉各国の声を拾う─大国との交渉に臨むマレ-シアと自由貿易を進める先頭に立つニュージーランド

 大国との交渉に臨むマレ-シア、自由貿易を進める先頭に立つニュ-ジランド。日本に伝わることの少なかった両国の声を、ニュ-ジ-ランドで7月に行われた利害関係者会合から、また18回会合主催を前にした、多民族国家の抱える国内事情を無視できない立場に置かれているマレ-シアの政治家の発言から拾ってみた。

 以下は、マレ-シアの新聞記事からの抜粋したものの抄訳、NZの利害関係者会議出席者からのメモを抄訳し、まとめたものである。

 ニュージ-ランドからは、ISDSについて公共の政策領域を護る、資本規制についても同様との立場を見て取ることが出来る。またマレ-シアの政治家からマハティ-ル元首相の一貫したTPP反対の発言に加え、ブミプトラ政策などへの影響、中小企業からの強い反対の声を背景に「国益に反する場合は署名しない」との通商産業大臣の発言などが印象的である。

 これに対して、日本政府からは交渉参加を前に、積極的にTPPに擦りよる姿勢が益々明確になってきている点が特徴的である。

7月9日の日経新聞報道にあるように、4月の日米事前協議で既に、「知財を始め7項目について方針を提示、米国と交渉方針を(米国案に近い内容で)統合して交渉に臨む」考えを示した。また、7月25日の新聞報道によれば、「日本郵政が日本生命との提携を事実上撤回し、日本国内のがん保険市場で約79%のシェアを持つアフラック社とがん保険で事業提携」、専ら米国からのかんぽ生命など郵政問題での圧力をかわしてTPP交渉で米国と同一歩調を取るものと見られている。

これが日本の産官に内在する論理であり、日米協力して成長のアジアで覇権を回復し、グロ-バル化の再編を進めることに躍起となている姿ではないだろうか。

(2013年7月25日(木)翻訳チ-ム 近藤康男)

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TPPでまたも粗悪な協定が結ばれる:経済大国が小国を搾取するTPP(7月12日ニュ-・ストレーツ・タイムズ掲載のマハティ-ル元首相談話から:抄訳)

 この間一貫してTPPを批判してきたマハティ-ル氏は、マレ-シアのこれまで進めてきた産業育成政策、ブミプトラ政策などの(マレ-人優遇)社会政策を護る立場から、ASEAN自由貿易協定を含めて今迄の多くの通商協定が自国の産業や社会に利益をもたらしてこなかったと断じている。

 国策車とも言えるプロトンは、90%を国産原材料・部品で作られているが、それゆえに40%を基準とするASEAN自由貿易協定に晒されることで、日・米・中・韓などの車に押され、マレ-シア以外では全く目にすることの無い車となっている。その一方で、マレ-シアの安全基準などの例外適用を受けるこれらの“ASEAN車”は、マレ-シア国内に販路を広げている。

 そして今、頓挫したWTOに代わりTPPだ。特に氏は、97~98年のアジア危機に置いて取られた独自の資本規制が奏功した一方、多くの国で一気に流失した短期資金がもたらした深刻な通貨危機にも言及している。更に新たな政府調達の対外開放やISDS条項などは、経済大国の巨大企業が小国の経済を特権的に支配するものだと批判、スカルノ大統領は反植民市主義という点では正しかったと語った。

 最後に、自分たちの国に影響を与えるのであり、秘密裏の交渉には異議を唱える権利があり、10月の最終決着など無視すべきと結んでいる。

マレ-シア通商産業相ムスタファ・モハメッド氏、国益に反するのならTPP合意はない!と断言(7月16日スタ-・オンライン紙から抜粋:抄訳)

 「協定が我が国の主権に有害なものであれば署名しない」「しかし、協定は進行中であり、現時点では白紙」と語っている。当日国会前で50人ほどの反TPPのデモがあり、デモ隊はナジブ首相、ムスタファ大臣、野党のアンワル・イブラヒム党首に宛てた意見書を提出したが、大臣は「反対派の意見も含め、各方面からの意見は交渉の際に考慮されるだろう」とも述べた。

 そして交渉は続いており、妥結の時期については「確定的ではない」とした。

通商産業省の官房長サンタ・マリア氏、協定の妥結時期については確定的でない(7月16日FMTニュースから抜粋:抄訳)

 官房長は、「最も重要なことは、マレ-シアの主権について妥協することは無いし、我々は我々の方針に拘る。一国が賛成しなければ妥結には至らない」「交渉技術を駆使し、主権を脅かす分野を除外する」と述べた。官房長は昨日青年実業家の団体が主催した公開討論の場で、「交渉経過を理解し。結果に対して影響を行使できることを求めたが故にマレ-シアは2010年10月に交渉に参加した」と講演しているが、中小企業などへの影響は無いのだろうか? 

 TPPは米国が主導して、アジア太平洋地域における貿易自由化拡大の基盤構築において、その役割を確固たるものにしようとする協定である。そして今コタ・キナバルで第18回の交渉会合が進められている。政党、NGOから個々の市民、マハティ-ル元首相まで、様々なグル-プが「大きな間違いだ」と反対している。マハティ-ル氏は「TPPは米国による中国封じ込めの手段だ」と評したそうである。しかし、政府は一貫して、この貿易協定の交渉に関与している。

マレ-シアの国会議員、TPPに関するグル-プを立ち上げる(7月8日FMTニュースから抜粋:抄訳)

 ジョホ-ル・バル選出のシャハリ-ル・アブドゥル・サマッド議員によれば、グル-プは7名、4人が与党Barisan Nasional党、3人が野党に所属、アフマッド・ハムザ議員が代表を務める。ラマダン期間中に発足すると記者会見で述べた。通商産業相のムスタファ・モハメッド氏も「議員からの提言を歓迎」と述べた。

 3党の野党連合Pakatan連合は、TPPは、ISDS条項に代表されるように、主権を脅かし、医薬品の価格を押し上げるとして交渉参加を批判してきた。

(ここまで翻訳:田所 剛、近藤康男/監修:廣内かおり)

7月3日、5日、ニュ-ジ-ランド外務省による利害関係者会議が開催(ジェイン・ケルシ-氏のメモを抄訳し、まとめた)

 以下は、質疑におけるニュージ-ランド外務省のデイビッド・ウォ-カ-首席交渉官の応答を中心にまとめたものである。

 ウォーカ-氏は、TPPによる貿易の拡大、農産品を中心とするNZのGDPの押し上げ効果をうたい、「ある朝起きたら、モ-ニング・レポ-ト紙に『我が国貿易相手国のほぼ半数が協定を締結したのに、NZだけが協定に参加していない』などという見出しが踊っているのを想像したまえ」と述べた。続いて彼は、議論の分かれる問題であるPHARMACニュージ-ランド医薬品管理庁とISDS条項に触れ、まだ如何なる最終決定もなされていない、という政府の主張をあらためて述べた。

 会合では、PHARMAC、ISDS条項などの関心事項と共に、衛生植物検疫、GM表示、公衆の健康に関わる煙草の包装問題などに質議が集中した。ウォーカ-氏は、国内法との関連で、TPPの関連する章は今のところ異議・修正を必要とするものは無かったと説明した。煙草の包装問題についても、公衆の衛生上の規制は継続できるという見解を述べた。

 日本の参加による交渉遅延への影響については「新たな参加国は、ブレ-キに足を掛けているなど出来ない、日本にとって挑戦し甲斐のある課題となるだろう」とのことだった。

以上はウェリントン商工会議所により招集され約50人のビジネス関係者と少数のNGO代表、外交官が出席していた。

(ここまで翻訳:小幡詩子/監修:廣内かおり)

 以下はウェリントン商工会議所において開催された会合のまとめで、ここでもウォ-カ-氏が中心に説明がなされた。

 ウォーカ-氏は、特恵を外れることにより、不利益を被り、他国に後れをとるとの見方を示した。また、関心の高い、保険制度については、「TPPの交渉で放棄するつもりは無い」ISDS条項については、「交易に資する規制当局のためのセイフガ-ドも提供される」としたが、いすれも明確な形での説明は無く「全てが最終決定されるまで、何も最終決定ではない」とした。

 各国で問題となっている「情報開示・草案の入手機会」について質問があったが、「交渉はゼロから始まっているのではない。過去の協定を見れば解かることも多い。交渉の場には交渉官だけでなく利害関係者が同席すること、利害関係者による経過への関与もある」との回答。

 再度同様の質問がなされ、「米国のように600名もの企業からの助言者、加えて消費者・NGO・労組代表がリストアップされ、文書にアクセス出来るというやりかたが出来ないのか」という追及に対し、それぞれの国にあったやり方があり、米国方式では知り得た内容を公に議論できないという負の側面もある、としながら、「ニュ-ジ-ランドでも法的には可能」、との発言がなされた。

 漏えいされた文書に「如何なる資本規制の利用をも禁じる」との条文がある点について、「IMFでの検討を反映しておらず、アジア金融危機に置いて巧みに対応したマレ-シア政府の規制など考慮されてしかるべきだが、政府の立場は如何?」との質問に対しては、「漏洩文書を物差しとすることは控えるものの、柔軟性、政策余地を残す立場で臨む」ことを認めた。

(翻訳:戸田光子/監修:廣内かおり)