「TPPに反対する人々の運動」

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zoom RSS ジェーン・ケルシー:TPP協定における日本・自民党の国益条件に関する問題提起(その1)

<<   作成日時 : 2013/08/25 08:40   >>

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ジェーン・ケルシー(ニュージーランド・オークランド大学教授/「異常な契約-TPPの仮面を剥ぐ」著者):TPP協定における日本・自民党の国益条件に関する問題提起
―2013年7月19日


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撮影・加工:TPPに反対する人々の運動・THE JOURNAL編集部


自由民主党(LDP)TPP対策委員会は2013年3月13日、「TPP対策に関する決議」のなかで次のように述べた。「とりわけ、政府は最優先の課題として、聖域または最重要分野の保護を追求しなければならない。すなわち、日本が自然及び地理的条件の制約を受ける農業、林業、漁業における5つの重要産品と、長い歴史をもつ国民皆保険型の健康保険制度のことである。これらの分野の保護が困難と判断される時は、政府は交渉から離脱することをためらってはならない」。

この小論は、自民党が選挙運動の中で推進し、2013年3月13日付の自民党TPP対策委員会決議で繰り返し述べられたTPPに関する6つの国益上の条件が達成されえない理由を説明するものである。本分析は、過去3年間にわたるTPP交渉について集約された情報と、安倍内閣が日本の交渉参加の条件としてアメリカと合意した取引内容を示した公式文書に基づいている。

日本政府はすでに、TPP交渉への参加承認の代価として、自民党のいう条件とは矛盾する譲歩事項に合意している。自民党が掲げた条件のいくつかはアメリカによって明確に拒否されており、2013年2月にワシントンで安倍首相がオバマ大統領と会談した際に明らかになっている。2013年7月18日、米通商代表(USTR)のマイケル・フロマンはアメリカ連邦議会歳入委員会に向けた証言のなかで「アメリカが4月に日本の交渉参加を合意した際には、日本の個別分野での先行的な例外は一切なかった、と強調した」。

TPP交渉参加に関する日本の条件を記載した2つの「食い違った」文書が発表されたことを指摘しておくことは重要である。アメリカが発表した文書では、日本が大きく譲歩したことが強調された。日本はTPP加盟国となるために、アメリカが要求した重要関心事項(利害が対立する)を解決するためアメリカとの二国間交渉をおこなうことに合意するとの内容が含まれていた。さらに、日本郵政による新規の医療保険商品発売の留保に関する合意など、日本からの具体的な譲歩内容が含まれていた。一方、TPP参加の条件を要約した日本の文書には、これらの譲歩が明らかにされていない。ほとんどの日本の新聞は、この経過について安倍内閣の筋書きをそのまま伝えただけだ。朝日新聞はその全体像について報告している。

朝日新聞:日本とアメリカによるTPP合意文書間の隔たり
(2013年4月17日−7ページ)


日米両政府は4月12日、環太平洋連携協定(TPP)交渉会合への日本の参加について合意した。これに基づき、両国政府はそれぞれ別々に文書を発表。しかし、その2つの文書に食い違いのあることは明らかである。両文書とも両国の国内読者に都合よくしたてられている。例えば、日本の文書は日本郵政のかんぽ生命については触れておらず、アメリカが公表した文書は農業問題に言及していない。このような修正により、両国内での文書の受け取られ方に相違が生じる。このことは将来のTPP交渉において問題となる可能性がある。

合意の詳細は、日本とアメリカ双方の公式合意として、佐々江賢一郎駐米アメリカ大使とマランティス通商代表代行との間の往復書簡の形で発表された。
しかし、両国政府はそれぞれの国民に向けて別々に文書を発表し、これについて内閣官房長官は、両国が強調したい部分に焦点を当てて編集したと述べた。日本の文書は「合意の概要」という題名がつけられ、アメリカは「日本との協議」と題した。この命名が文書の食い違いを表わしている。

まず、日本郵政グループ傘下のかんぽ生命について、アメリカの文書は次のように述べている。「日本は、かんぽ生命の[新規または改訂版の]がん保険及び/あるいは単独型医療保険の認可を、民間の保険会社と同等な競争条件が確立されたと政府が判断するまでは差し控える、と自ら表明した」。

しかし、日本が編集した文書は次のように述べただけである。「アメリカと日本は、TPP交渉が決着するまでに非関税障壁に取り組むことで決定した」。この文書からは、日本とアメリカが日本郵政の保険事業について議論をするのかどうかについては不明である。

合意に至る交渉の間に、アメリカは日本に対して、かんぽ生命によるがん保険のような新規商品の着手は認可しないようにと要求した。これは、アメリカンファミリー生命保険などアメリカの保険会社が癌保険及び医療保険の市場で大きなシェアーを有しているからである。
日本は、かんぽ生命が民間分野のライバルと競争する上で、新規事業に着手することには何の問題も生じないだろうと反駁した。けれども、アメリカは受入れないだろう。結局、両国はそれぞれお互いの表現に落ち着き、関係筋によると麻生太郎財務大臣が、かんぽ生命による新規商品取り扱いを日本は認可しないだろうが、しかしこれは合意の具体的事項に関係するものではないとの発表をすることで合意した。
他方、日本が関税撤廃の例外をめざしている農産物に関して、両国はかんぽ生命の事業拡大に関するそれぞれの立場とは反対の姿勢をとっている。

日本の文書では、両国が重要関心分野を有していることで合意したと述べている―すなわち日本にとっては農産物でありアメリカにとっては工業製品である。したがって日本の文書は、日本の農産物及びアメリカの自動車の関税は事実上維持される可能性があることをにおわせている。しかし、アメリカの文書はこの点に全く触れていない。

この違いに対してマランティスは12日の電話会談の中で次のように語った。「日本が全ての品目を交渉のテーブルにのせることは、二国間の首脳会談(2月の)で確認済みだ」。

アメリカは自由貿易の推進役を標榜する国だ。自由貿易は推進されねばならないという世論が優勢なため、例外的な問題にできるだけ触れないようにしているのは明白である。
菅義偉内閣官房長官は「合意には何の相違もない」と強調した。しかし、重要関心事項について触れていない文書が、具体的な合意内容としてアメリカ国内で広まるのではないかという懸念がある。

日本とアメリカの間の合意に関して、全米豚肉生産者協議会(National Pork Producers
Council)幹部は15日にアメリカで行われた記者会見で「我々は大変な期待感を抱いている」
と述べた。さらに「全ての貿易品目の関税は最終的に廃止されなければならない」とも語
っている。

交渉の枠組み

日本はTPPに関する2つの交渉に参加することに合意してきた。すなわち(@)アメリカとの二国間交渉と(A)TPPの全参加国との多国間交渉、である。この方式には、アメリカが日本に対して最大限の影響力を与えることが意図されている。日本がアメリカの要求を満たすのを待って、はじめてTPPはアメリカと日本の間で施行されるからである。※注

*注)アメリカの最近の自由貿易協定では、議会での法制化に際しては大統領による正式な通知文を必要とするが、それには、協定相手国(この場合は日本)が、協定順守に関するアメリカの要望にかなうよう、国内の法律または政策を変更したという大統領の証明が要求される。 このことは、当該協定の交渉と調印が終わった後にもアメリカが追加的な約定を獲得する結果となるとも批判されている。
同様なことが、例えば2012年1月のアメリカ-パナマのFTAに際しても行われた。このような政策を実行するため、アメリカ政府は協定の施行を承認する前に、相手国が履行すべき国内法等の改正点についてのリストを送付し、ある時は相手国まで赴いてその履行状況を監視する。アメリカが議会の承認を終え、相手国が国内法の改定を履行したのちでも協定が施行されない可能性がある理由は、このような方針によるためである。おそらく、TPPと最も似た事例がアメリカ-中米自由貿易協定(CAFTA)であり、異なった時期、異なった国でアメリカの要求を受け入れようとする中で同様のことが発生した。

(@)アメリカと日本との二国間交渉

安倍内閣は、他のTPP参加国には要求されていない独特の取決めの中でアメリカとの二国間交渉に合意した。これらの交渉は次の事項に適用される。
(a)自動車の市場参入ならびに、透明性、流通、技術基準、認証手続き、新規及び環境
対応の技術、課税に関する自動車関連の規則、
(b)国内の政策及び規制の枠組みに影響を及ぼす一連の「非関税措置」。合併及び買収、
規制の透明性(アメリカの産業界からの関与)、流通及びサービス網、政府調達、日本郵政のような国営企業を含む競争政策。

これらの交渉の付託事項に関してアメリカが理解した内容は、通商代表部のマランティスから佐々江大使へ宛てられた書簡の中で提示されている。
さらに、アメリカは農産物の市場参入について日本との二国間交渉を行うだろう。他のいくつかのTPP加盟国ともアメリカは農産物に関する同様の二国間交渉を行っているが、全加盟国との間ではない。

(A)多国間によるTPP交渉

日本は2013年7月23日からTPPの全体交渉会合参加を認められる予定である。マレーシア
で7月15日から24日まで開かれる第18回会合の後半部分である。日本の交渉団は23日まで、公式の条文案を目にすることはできない。

安倍内閣がメキシコやカナダと同様の加入条件に合意したことは広く報道されている。それには、日本が交渉に参加する時点で他の参加国が既に決定した条文はどれも覆せないという合意が含まれている。言い換えれば、日本はまだ「妥結」に至ってない条文についてしか影響を及ぼすことができないのである。
日本政府当局は7月12日、日本の交渉参加後、条文を部分的に修正する権利を留保できると述べた、と報道された。しかし日本がそのような行為が認められると信じているとは思えない。特にマレーシア、カナダ、メキシコは事前に合意済みの条文の再交渉が不可能であることを事前に了承しているからである。

21の作業部会による29の分野に関する今日の交渉状況は公表されていない。しかしマレーシア政府は2013年6月、便宜的に「事実上終結」といわれる分野のリストを公開した。税関手続き、電気通信、開発、中小企業、衛生植物検疫措置、越境サービス貿易、一時入国、政府調達、労働、協力及び能力育成、競争及び事業の円滑化、規制の一貫性、設立条項及び一般的定義、そして行政及び制度的事項である。 「妥結」とは技術的な検討作業が完了したことを意味する。これらの分野での合意をみていない諸点は、主席交渉官または政治レベルで解決が図られよう。日本は、その過程には参加できるであろう。

議論となっている主要な分野は、アメリカが最も急進的な要求を掲げている分野である。すなわち知的財産権、特に著作権、特許そして地理的表示;環境、競争、特に国有企業;電子商取引;そして農産物を含む物品市場参入である。

二国間交渉と多国間交渉との関係

TPP本交渉と、自動車、農産物の市場参入、非関税措置(NTMs)に関するアメリカと日本の二国間交渉には実質的な重複がある。これら二つの交渉の関係は明確ではなく、部門や規則によっても異なる。
自動車と農産物に関する二国間交渉の結果は、TPP協定の最終版に含まれると考えられ、TPPの紛争解決手続きを通じて施行されるものとなるだろう。

非関税措置に関する二国間交渉の法的位置づけは若干明確さに欠ける。米通商代表部の概要説明には、二国間交渉の結論に従って処理されねばならない問題があげられている。また非関税措置交渉の結果は、協定がアメリカと日本との間で施行される時点までには実施されなければならない、とも述べている。 米通商代表部の概況報告書は、非関税措置の交渉結果はTPP自身と矛盾してはならないだろうが、法的拘束性のある合意、書簡の交換、及び新たなまたは修正された(日本国内の)規制または法律を通じたものなどを含む方法によって「謳われる」こともあるだろうと示唆している。

したがってアメリカと日本との間で合意される規則は、日本と他のTPP加盟国間で適用されるものとは異なってくるだろうと思われる。他の国が同じレベルの譲歩を日本から引き出したいと望み、またいかなる最終的な合意内容に対する履行及び遵守のコストが増加する場合には、その交渉を複雑化させるものとなろう。カナダはすでにアメリカに対して、日本と行う自動車及び他の問題に関する二国間交渉がどのようにカナダに影響するかについて明確化するように求めているが、公式の回答は出されていない。

並行交渉のタイミング

米通商代表部によれば、二国間交渉は2013年7月23日に日本がTPP会合に参加する時に始められ、参加国間のTPPに関する多国間手続きと並行して行われることになる。この交渉の決着時期は明確になっていないが、米通商代表部は次のことを公表している。
a)アメリカは非関税措置に関して、TPPが他の参加国と決着した「後に」も日本との交渉を継続することがありうる。
b)自動車と非関税措置については同時に妥結されること。「これらの問題全てを決着しうることなしに日本との間でTPPを決着させることはない」。
c)非関税措置交渉の結果は、協定がアメリカと日本との間で施行される時点までには実施されていなければならない。

つまり、日本とアメリカの合意が二国間交渉において達成されるまで、TPPの全体交渉も続けられるということである。さらに、TPPに含まれる広範な問題に関して日本とアメリカで別の付帯的合意がなされることを意味する可能性が高い。他のTPP参加国ならどちらの方法も好まないだろう。

先に注)で述べたように、アメリカ国内の手順によるとTPPがアメリカと日本の間で施行される前に、アメリカと他のTPP参加国との間で施行されるというリスクがある。

要するにこれは、アメリカが農産物及び自動車に関する二国間交渉の結果に「満足」し、 非関税措置の交渉による結論と一致すると確信できる内容を日本が履行するまでは、TPPの下でのアメリカの義務は日本に対して実施されないことを意味している。結局、交渉結果に対する拒否権をアメリカに与えているのだ。まさにアメリカ-中米自由貿易協定(CAFTA)で起きたことである。アメリカが満足するような条件を満たした参加国は、CAFTAの恩恵を受けられることになった。参加国のなかには自国の国内承認手続きが終わっているにもかかわらず、何年間もCAFTAの恩恵を得られなかったところもあったのだ。

さらに、このような二国間交渉の中で、より幅広く交渉されるTPPでアメリカが達成できるよりもいっそう強力な約定をアメリカが日本に要求できることを意味している。言い換えれば、日本はこの二国間交渉の結果としては他のTPP加盟国よりも強い制約に直面しているようだ。
事実上、二層状態の条約になるだろう。すなわち、アメリカと日本を除いた全参加国によるTPPと日本・アメリカ間の“TPPプラス協定”の二層である。(その2へつづく)

(翻訳:池上 明・田中 久雄/監修:廣内 かおり)

【ジェーン・ケルシー/プロフィール】
ニュージーランド・オークランド大学教授。法律・政治、国際的経済規制が専門。
新自由主義的なグローバル経済がもたらす負の側面へ警鐘を鳴らす。特に自由貿易定に着目。アジア、南太平洋そして世界の研究者、NGO、労働組合と連携し、国際連帯運動に大きく寄与している。著書に「異常な契約 TPPの仮面を剥ぐ」(農文協)ほか。

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