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zoom RSS 【海外情報】ジェーン・ケルシー:新たな世代の自由貿易協定がアルコール政策に及ぼす影響(前編)

<<   作成日時 : 2012/04/09 15:49   >>

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2012年2月にタイのバンコクにて開催された「世界アルコール政策会議」におけるジェーン・ケルシー教授(ニュージーランドオークランド大学法学部)の発表論文です。翻訳ボランティアチ−ムで翻訳をし、掲載します。(翻訳担当:田所・近藤)

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(C)THE JOURNAL


【概要】
環太平洋地域各国のアルコールおよびタバコの管理政策が自由貿易協定によって被る影響を発表したものである。
企業の権利を手厚く保護する各種の自由貿易協定により加盟各国における国内向けの健康保護政策がアルコールやタバコ関連企業、よびその投資家達の執拗な訴訟により攻撃を受け変更を余儀なくされている事例が複数紹介されている。
特に現在検討が進んでいるTPP(A)は、これまで以上に国内の政策策定にも深く関与する内容となっており、もしこれが発効するとより一層一部企業や投資家達による「特異」な訴訟により国家の政策立案の主権すら脅かされ兼ねない状況となることが警告されている。

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The Implications of new generation free trade agreements for alcohol policies
新たな世代の自由貿易協定がアルコール政策に及ぼす影響


自由貿易協定というものがただ単にアルコール類を輸入制限品目から除外するものであるという時代はもはや過去の話となった。以降、これまでいくつもの協定が出現してきた。そして、其々の協定は国内の規制にまで深く関与するように作られるようになっている。
最初は、関税以外の障壁、特に健康面への影響をラベルに表示することやアルコール濃度の上限設定などの、技術的側面での貿易障壁に対する制約が広がった。
1995年にWTO(世界貿易機構)が出来ると、国境を跨ぐ市場戦略や小売などのサ−ビス分野、海外投資、そして商標など知的財産における独占権などが“貿易”上の問題の主流となった。これらのルールは2000年代における多くの自由貿易協定によりさらに進化し、しばしば経済連携協定と呼ばれるようになり、より厳しい制約を加盟国の政策に及ぼすようになった。国内における規制に対する制約自体が自由貿易協定を構成する一つの要素となったのである。
つい最近では、新たな種類の協定が、これまでにあったどの協定よりもさらに国境の奥深くまで入り込むことを目的として作られるようになった。もしこれが成立すると、国民の利益のために策定する規制、特にセンシティブな分野(重要関心分野)での策定に際して、企業利益をより反映するような手続き的かつ実質的な義務が、政府に対して課せられることになる。

その「黄金の基準」とは、TPPA(環太平洋連携協定)のことであり、現在、豪州、ブルネイ、チリ、マレーシア、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、アメリカ合州国、そしてベトナムの間で交渉が進められており、またカナダ、日本、メキシコがそこに連なっている。彼らが目指すものはアジア太平洋経済協力(APEC)加盟国を巻き込み、アジア太平洋地域に自由貿易圏を創設するという最先端の協定を締結することである。
しかしながら、その協定による目先の恩恵者は企業であるものの、最終的な目標は地政学的なものである。つまりアメリカはTPPAを“アメリカによる”太平洋の世紀と称される経済政策の手段として捉え、最終的には、発展する中国に対峙しようとするものである。この戦略を支持する国々が支払う代償は、例えばアルコールやタバコ等、特に議論の分かれる分野の国内政策に対し、前例のない圧力がかかるということである。包括的なルールにより増大する実態的影響は、特に海外投資分野、国境を越えたサービス、相互承認、国有企業の分野、そして透明性や規制の一貫性といった手続き面に及ぶものである。そして、現在のWTOやFTAにおける義務と統合されれば、政策策定における力の均衡を、多国籍企業の利益に資する方向に確実に移行させるだろう。

この論文は、新たな協定がアルコール政策に関連する以下の3つの分野においてどのような意味を持つのかを検証したものである。

1)商品流通の促進(貿易、国境を越えたサービス、相互承認の手続きそして国営企業、に関する技術的障壁)
2)投資ルールと投資家対国家間紛争
3)透明性と各種規制の一貫性

外部に漏れたいくつかの章の条文や背景資料を除くとTPPAの原文は非公開であることから、分析は必然的に類推的なものとならざるを得ない。交渉関係者はこの協定が署名されるまで、つまり合意を期待している2012年末までこの秘密主義を貫きたいと考えている。また、彼らはこの協定が成立、もしくは決裂した場合にもそれ以降4年間は条文案とその背景資料の公表を行わないことで合意をしている。
この論文は、多くの規則や圧力というものが、国内政策の策定過程や対外的な対抗手段に対し、どのようにして企業利益の影響力を確実なものとするために利用されるのかについて推論を含めながら結論づけたものである。

■世界市場に仕えるための“貿易”協定の再統合

現在検討されているTPPは、理論的にもその構想においてもWTO以降の「自由貿易」協定の中において最も重要な戦略的な転換を示唆している。
第一の違いは、概念的なものである。従来の貿易協定は、比較優位論に基づいており、各国は最も優位性を持つ商品生産に集中し、国境を境とした商品の交換を行っていた。今回の新たな協定は、世界的に統合された資本、サービス、商品、情報、そしてエリ−トの移動を通した貿易を意図し、市場・商品流通・企業の体系的な統合を促進しようとするものである。それは、世界のアルコール業界の戦略と完全に一体的なものである。
二番目に、この協定は、まず国内の政策や規制を標的としている。この協定には依然、アルコール類に対する関税や輸入制限措置、類似商品に対する差別的な措置といった従来の貿易ル−ルも含まれるだろう。しかし、その協定がもたらす更なる意義は、海外の投資家や国境を跨ぐサービス、国際的な商品の流通網に影響を与えるような、国内の規制に対する新たな“制約”からもたらされるところにある。これらの“制約”は、包括的かつ補完的なアルコール管理政策の一部として進められている、供給側に立った諸施策の大半に大きな影響を及ぼすことになる。
三番目として、それは統合された新たな仕組みの実現を目指すことになるであろう。WTOに基づく個別の合意には正式な意味での相互関係はほとんどなく、ただ重複と混乱をもたらすのみである。ほとんどのFTA協定の構成は、国境を跨ぐ企業間取引の実態に適合するように常に修正・追加がなされてきており、特に、WTOの下では到底共通の理解が得られないような条項が盛り込まれてきた。それらは相互に関連しあい、またそれにより互いに補強されている。またそれにより、彼らの相互の関連をより複雑化し、法制上の複雑性を増している。
このような、(アルコール政策における)異なる章・条項を統合し、また簡素化することで「ボウルの中のスパゲティ(のように複雑に絡み合った状態)」を克服しようとする動きは、協定を全体的に捉えることでしかアルコ−ル政策にとって意味するものを理解できないということを表している。
四番目に、それは市場参加者に対し国家政策決定への影響力の行使と、協定という形を持つ制度上の準備に参加する新たな機会を与えることになる。このことは、公的保健の擁護者等が、政府の決定に対するアルコ−ルやタバコ業界のロビ−の影響力を後退させようとする際に、業界の影響力を強化することになるだろう。
最後に、業界はこの協定を、相互の利益を保障する2国間の通商条約とは見なさずまた地域内での市場統合とすら見なしていない。そして、同じような考え方を持つ政府は、この協定を、個々の政府が自らの力で革新的なアルコール政策を進める余地を深刻なまでに弱体化させる、強制力のある新たな覇権のための基準にしようとしている。TPPAは三つの相互補完的な構造により新たなモデルを推進しようとしている。

■流通網への支援

アルコール業界は、商品流通網の拡充を、世界市場への商品供給と収益性とを最大化するための戦略と位置付けている。国内におけるアルコ-ル業界の生産者、輸入業者、広告業者、流通業者のネットワ−クは、競争のための共通の枠組みの中でしばしば協力し合っている世界的な支配力を持つ企業に水平・垂直統合されつつ事業を展開している。戦略の焦点は、商品の集中的な生産から、高級な商品を全国的市場の至るところに一貫流通させるという販売戦略に移行している。この戦略は様々な種類のサービス、すなわち広告、放送、娯楽業界、電子メディアを通じた販促活動、インターネットサイト、eメール、携帯電話、イベント運営への依存から始まり、そして国境を越え、国内投資家の手による小売・卸売の流通やフランチャイズに至るまでの一連のものに依拠している。
TPPAに関するUSTR(米国通商代表部)への要望書の中で、米国の小売業者協会は、自由貿易協定の激増と拡大する協定間(の内容)の差異が貿易を一層複雑化でより費用がかかるものにし、さらに米国の小売業や世界的な流通網を持つその他の企業による事業展開の実態としばしば相容れないものとなっていると訴えている。つまり、“より合理的で相互に連携したシステム”であれば可能となるはずの規模の経済の優位性を米国企業が利用できなくなっているというのである。
同様に、米国食料雑貨製造協会は食品、飲料品、消費物の供給網の国際化が益々進んでおり、商品の流通に関係した政策や規制がより統合がされれば、もっと利益を享受出来るであろうと主張している。TPPAは、基準・原産地規則やその他の貿易政策と、当該地域の既存の貿易協定とを調和させる大きな機会となるのだ。
供給網の問題はTPPA交渉において横断的な課題の一つとなり、議論をリードする交渉担当官の一団から注視をされてきた。

2011年11月のAPECにおける大臣報告書によると─
TPPの作業チームは、TPP加盟国間における貿易、商品の生産と供給網の発達を容易にし、雇用の創出、生活水準の向上、そして福祉の充実という目標につながる真の地域協定を創設することで合意した。 
この目的のため、貿易協定としては初めて、地域における商品の製造や流通網全体の発展についても焦点を当て、さらに関連する接続性(商流・物流・手続きの一貫する流れ)、税関同士の協力、基準まで含むものとしている。
交渉担当官は、さらにこの種のものとしては初めて、商品供給網を含むTPP地域での競争上の優先事項について政府と利害関係者の間の高次の対話を行うことができる仕組みについても検討を行っている。この協定の履行が、21世紀において進化する事業活動と投資活動に常に対応するものであることを保証するためである。
もしTPPAがその手順を簡素化しようとするものであるならば、その複雑さを管理するメカニズムを開発する必要がある。交渉の秘密主義のため、業界のロビースト達が活発に関与しているのは間違いないものの、どのようにこれがまとめられるのか外部には明らかでない。統合されるべき明らかな要素はいくつか存在している。

Technical barriers to trade(TBT)・貿易に関する技術的障壁は流通業界にとっては非常に重要な法律的概念である。既にWTOでは加盟国政府に対し、TBTに反するかもしれない措置を導入しようとする際には他の加盟国に対する通知義務を課している。これは、当該国に対するある種の圧力である。
これらの措置についての議論から出てきた主張から、TPPAにおいても様々な訴えが出てくることが予想される。
訴えの原因はいくつかあるが通常、採用された措置と公的政策が目指すものとの関係の証明など、その措置を補完するしっかりとした調査・研究が不足していること、そして、強制的な規制の導入の前に行われるべき自主規制や研修プログラムなど、目的達成のための最も負担の少ない方法の導入がなされないことなどである。解説者達によれば、研究が不充分で強固な方法論が欠けているという非難はアルコール政策に関しても共通しており、特に目新しい措置は、まさに新たな措置であるというそのことによって、その有効性を証明することができていないのである。発展途上国におけるデ−タ不足は、市場開拓、価格設定あるいは入手可能性に対する特別な規制措置の根拠を特に困難なものにしている。
これらの主張は大企業やその関連企業の後押しによる反証により強まっている。
2010年6月と11月に開催されたWTOの TBT委員会でのアルコール規制法の議論から、TPPAの不透明な交渉過程においてこれらが標的になることは明らかである。
TBT委員会の議論では、2010年1月に提出されたタイのアルコール法草案が特に焦点となった。その法案は、アルコールのパッケージに記載されるアルコールに対する健康被害の警告文の表示面積割合を特定し、またそのデザインは1000パッケージ毎に変えられるべきであるといったものであった。TPPA加盟の豪州、ニュージーランド、米国、チリ、そしてEU、ブラジル、メキシコ、スイスは、アルコールのもたらす危険を予防しようとするタイによる規制の権利を支持するものの、しかし、目的を遂行する上でより貿易制限的でない手段がある、と述べた。
たとえば、ニュージーランドは、その措置により輸出業者に対し膨大な追加費用が発生すること、さらにその費用のどれだけがタイと他の国々における規制の違いにより生じるのかという点について懸念を表明した。 ニュ−ジ−ランドの代表は、世界保健大会の“アルコ−ルの有害的な摂取に関する戦略”が、アルコ−ルの有害な摂取に関連する政策目標と他の政策目標との適切なバランスがあるべきである、という指針を提供していることに気づいていたのである。
皮肉にも豪州とニュージーランドでは、豪州におけるタバコのプレインパッケージ法に関連して生じた同様の主張がタバコ業界に常に指摘されるものの、却下されている。
これらの圧力に対抗するため、タイは自らの立場を補完する報告書を作成し、WTO加盟国の会議を主催した後に、健康への注意喚起を含むアルコール規制の影響を検討する新たな小委員会を立ち上げたことをTBT委員会に通知した
2010年におけるケニヤのアルコール規制法では全面積の最低30%は絵を含む注意書きとし、50パッケージ毎に絵柄を変えることを求めているが、これに対しても同様の反応が示された。
メキシコは、その法律は貿易に対する不必要な障壁となっており、アルコールの過度な消費を抑制するためには、情報キャンペ−ンのほうがより効果的であると述べた。
その法律はWTOのメンバーがコメントをする以前に発効されていた。
米国とEUも同様の主張をおこなっている。この件に関しては豪州のプレインパッケージ法に関する検討会と同じTBT委員会の場で話し合われたが、議事録を見る限り豪州とニュージーランドはいずれも発言をしていない。
TPPAにおけるもう一つの実質的な異議申し立てとしては2011年におけるUSTRによるTBT技術的障壁に関する報告書があり、これには米国の業界による懸念が反映されている。この報告書は、各国におけるアルコールのラベルへの表示義務は“科学的な根拠に乏しい”ものであり、アルコール濃度や化学物質、食品添加物、そして遺伝子工学使用食品の義務的表示と同様に、合法的な商標を侵害するものであるとしている。ラベル表示のローテーションの要求については、煩わしくかつ実質的な貿易障害であるとしている。
同様に、USTRは、タイのスナック菓子のラベル表示に関する提案は「健康と栄養に関する一般化された科学的技術的情報から逸脱している」ものである言い、米国の輸出に対する深刻な障害となる恐れがあるとしている。表示問題に対するこのUSTRの対応は、2006年に巧みに妨害された信号機システムへの提案にとって替わるものであった。
米国のタイに対する戦略は、代表団をワシントンに招いて接待し、警告表示に対する“最適慣行”を含め、責任ある飲酒を勧めるための“最適慣行”を分かち合うことであった。
政府は通常、アルコールとタバコ政策に対する不服申立てに直面すると、国民の健康対策のための一般的例外対応という方向に向かう。そしてその対応策は、必要度テスト及び、対応措置は恣意的で過度に差別的な貿易障壁でもなく、偽装された貿易障壁でもないという条件とを適用するものである。それは通常非常に限定的なものと説明されてきた。
公的な政策に対する貿易規則による介入という批判の増加を受け、WTOにおける最近の例外規定の決定には前向きなものがある。最近のWTO専門委員による丁子入りタバコに関する報告書は、2007年の輸入タイヤに関する報告書の論法を引き継ぐ内容であり、それには、上告審が、“必要度”の影響調査に当たっては、以下のように考慮するべきであると述べている、とある。
すなわち…関連する要素、特に危険に晒される利益もしくは価値の重要性、そして対応措置の目的達成への寄与の程度、そして貿易の制限の度合いを考慮すべきである、もしこれらの分析によりその措置は必要であるとの仮の結論がでた場合、さらに他の可能な代案があり得ないか比較検討により確かめられなければならない。

貿易に対してより非制限的な代替案への上告審の対応は、公的政策の目的に対して更に細心の注意を払うものであった。インターネット上のギャンブルにおける紛争についてのGATSサ-ビス貿易に関する一般協定(General Agreement on Trade in Services)の同様の条項に関する事例を受け、上告審は、“不服申し立てを行なった加盟国は、同時に、相手国が政策目的との関連で望ましい水準となる保護措置を達成する権利を失わないようにする、貿易に対してより非制限的な代替案を確定する義務がある。”と述べている。そのような選択肢は、目的を達成するために適切であると言われている既存の代替案と言うよりは真の代替案であり、かつ理論的にも可能なものでなければならない。
係争中の措置はまた、累積的に目的を前進させる一連の対応措置の一部を構成することになる。即ち“複雑な国民の健康や環境の問題は、相互に影響しあう様々な対応措置からなる包括的な政策と共にのみ取り組まれるべきもの”である。

問題は、確実な結果が全く保証されていないことである。
TPPAと同じようなFTAにおける紛争解決の手順は、WTOの紛争解決システムの範疇外と言っても、それほど予測不可能ではない。ただ、投資家から提訴された国家に対する訴訟は、全くその件限りの特別な仲裁裁定の過程を踏むものになり、別の物である。

後編につづく)

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ジェーン・ケルシー著:異常な契約-TPPの仮面を剥ぐ

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